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街道をゆく 35 オランダ紀行

街道をゆく 35 オランダ紀行

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日本の古き良き友人、オランダを紹介!

あらすじ・概要

鎖国時代、日本にとって唯一の西欧文化の窓口だったオランダ。

自由と自立を尊ぶ質実剛健な国民性や、レンブラントやゴッホなどの芸術家を輩出した背景を、司馬遼太郎氏の筆致で伝える紀行文。

興味を覚えた項目を紹介する。

オランダ人はみな英語が上手

母国語を大事にしない訳ではないが、学術書などは英語で書いた方が多くの読者に役立つと考え、名より実を取る。

オランダの英語での正式名称は Netherlandsだが、これは低地という意味のほか、冥界・地底の地獄という意味もあるが気にしていない。

世界は神が作ったが、オランダはオランダ人が作った

オランダの国土の大半は海抜以下。堤防と風車で水を防ぎ汲み出してきた。国土は自分たちで作ったものだという自負がある。

オランダは商人の国

商品経済が質と量を厳密に

レンブラントとゴッホ

レンブラントの時代17世紀の絵画には写実が重視されていた。富裕な人間には肖像画を書かせることがステイタスとなっていたため、画家がビジネスとして成り立っていた。レンブラントは才能溢れる芸術家には珍しく常識的な人間だった。

一方、19世紀後半のゴッホの時代には写真が実用化され写実的である以上の芸術性が絵に求められるようになってきた。ゴッホの生前には彼の絵は全く売れず、人間としても奇矯で実弟に支えられていた。ゴッホの作品を守り死後に評価されるきっかけを作ったのも実弟とその妻だった。

やわらかい国境

オランダ・ドイツ・ベルギーの国境は柱状の石柱1本だけだったりする。本書が描かれたのは1980年代と40年ほど前でまだEUはなかったが、この頃から国境を無くそうという動きは始まっていた。あるいはそういう考え方がすでに存在していたと言える。

フランダースの犬

日本ではアニメ化されたこともあって有名な話だが、舞台となったベルギーではあまり知られていない。「年端のゆかない子供だったから不幸な状況に流されるしかなかった」という設定が19世紀末のヨーロッパの時代の雰囲気に合わなかったのだろうと分析している。一方日本では「忠犬」という設定が忠義を重んじる傾向が当時はまだあったため受け入れられたのだろうとみている。

温暖化対策

国土の大半が海抜以下にあるオランダでは温暖化による海面上昇は死活問題。30年前となる1990年にはすでに率先して二酸化炭素排出制限に取り組んでいた。

感想・考察 

オランダ人は自由と自立を大事にする。大麻や売春が合法だったり安楽死が認められていたりと「自分のことは自分で決め自分で責任を取る」という考え方が徹底している。

オランダ人と付き合っていて、相手の生き方に口を出されることはない。アジアの湿っぽさとは対局的だと思う。飲み会での飲酒強要が当然なアジア文化に慣れていると、飲酒を強いることはまずなく、なんなら水でもジュースでも気にしないというオランダの飲み会は超快適だ。

華美を嫌う質実剛健さも心地よいが、食べ物はちょっと地味すぎるかもしれない。。

キベリングとかハーリングなど海鮮系は美味しいし、イタリア料理や中東料理の美味しいレストランはたくさんあるが、オランダ料理として特筆するものはないかもしれない。司馬遼太郎氏が「コロッケが一番美味しかった」と言ったのも、まあ理解できる。。

あとは、あるレストランに「めずらしく」美しい女性がいたという描写も相当失礼だが、まあ理解できる。。。

今日でこそEUのシェンゲン協定圏では国境を意識することがないが、本書が書かれた30〜40年前でも国境が「やわらかかった」というのは面白い。日本のような島国にいると国境はもう少し固い。島国であるUKはEUに属している時期でもシェンゲン協定から外れ国境を維持していたのも、島国の感覚なのだろう。それでも徐々に国境はやわらかくのだろうなと思う。

温暖化対策への取り組みが早かったことも分かった。今日でもその姿勢は明確だ。自転車を徹底して優遇して自動車の数を減らしたり、センサー満載の信号システムで渋滞を回避したりと、取り組みが本気だ。先日もトラクターによるデモがあったが、市民の環境に対する意識も高い。

なかなか面白い、学ぶべき点の多い国だと思う。

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