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虐殺器官

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罪はトレードオフ。

自分の罪を受け入れる力はあるか。

あらすじ – ネタバレ

911の後の世界で、人々はテロを防ぐため生体認証による徹底的な管理を受け入れ始めていた。またテロの影響で従来は認められていなかった「暗殺」が、非公式ながらも採用されることになった。

米軍で暗殺特殊部隊に所属するクラヴィス・シェパードたちのチームは、内戦が行われているある国で虐殺を主導している国防大臣と文化情報次官を暗殺する命を受ける。国防大臣はクラヴィスに殺される直前に「どうしてこんなことになったのか分からない」と言った。もう一人のターゲット文化情報次官ジョン・ポールはクラヴィスたちが乗り込む直前に現場から脱出していた。

クラヴィスたちはその後も、虐殺が行われている国への潜入暗殺を繰り返したが、ジョンは毎回直前で現場から離れていた。

「ジョン・ポールがプラハの女性に会いに行った」という情報を得た米軍は、クラヴィスたちを派遣する。ジョンと会っていた女性 ルツィア・シュクロウプ にチェコ語の生徒に扮して乗り込んだクラヴィスは、やがて彼女に惹かれていく。

ルツィアはプラハに残る「現金を使える店」

またルツィアはかつてジョンと不倫関係にあり、ジョンの妻子が核兵器の犠牲になった時にも会っていたことに罪の意識を感じていることを、クラヴィスに明かす。

クラヴィスも交通事故にあった母の延命措置を自分の判断で止めてしまったことを、今も受け入れられずにいることを彼女に告白した。

クラヴィスたちが迫っていることに気づいたジョンは逆にクラヴィスを捉えてしまう。そこでジョンは「虐殺が行われる時に使われる言葉には特有の『深層文法』があり、逆に『深層文法』をばらまくことで、虐殺を誘引している」ことを明かす。クラヴィスは仲間の助けで解放されるが、またもやジョンを取り逃がしてしまう。

その後、インドでの作戦で再びジョンを捕獲するが、何者かの襲撃により逃げられ、クラヴィスたちのチームも大きな被害を受けた。結果的にジョンに情報を流し逃亡を助けたアメリカ政府上層部の人間をあぶり出すことにはなった。

最後にクラヴィスは、アフリカの新興国でジョンを追い詰める。ジョンが虐殺を煽っているのは、自分の理論の実証したいわけでもなく、狂気に任せているわけでもなかった。妻子を失った罪の意識から、今度は愛する人を守るため「テロを起こす可能性のある国を先に内戦で潰す」ことを目的としていた。 

感想・考察

近未来の兵器や政治体制などの描写にやけにリアリティがある。核兵器が「結構使えることに気づいて」しまった世界というのも怖い。

中国や欧州各国では現金が使えない店が増えてきたし、日本でも最近は電子マネーへの移行を促進している。そこに生体認証や、通信デバイスとの紐付けが加われば、誰がいつどこで何をしたのかトレースすることも可能になる。

仕組み的には、ジョージ・オーウェルの「1984」以上に精密な管理社会も可能になるのかもしれないけれど、自分自身も危機感を感じてはいない。「自分の個人情報なんて、まあ大した意味はない」くらいの意識なのが本音だ。

人は自分が見たいと思っているものしか見えないものなのだろう。デリバリービザと動画サイトと、なんとなく便利で、大きな不満がなければ現状を肯定してしまうものだ。

 

一方で、決断をすることはいつも苦しい。

クラヴィスは、母の延命を止め時には、思考を止め「母を苦しませたくないから」と自分を納得させた。特殊部隊の任務で、暗殺したり、時には子供の敵を撃ち殺したりすることも「自分でない誰かが決めたこと」だとして考えることを避けてきた。

むしろジョンの方が「自分が守るべきもののために、他のものを犠牲にする」ことを自覚的に選び、その罪を受け入れていた。

「虐殺」というのは極端だが、日常生活でも「決断し、場合によっては罪をかぶる」ことから逃れるため思考停止することがある。

 

自分で考えて自分で責任を取ることから、逃げ切ることはできない。



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