AIとBIはいかに人間を変えるのか
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The difficulty lies, not in the new ideas,
but in escaping from the old ones.
要約
- AI – 人工知能とは
AI 第3次のブームを迎え「ディープラーニング」で「特徴量を自律的に学習する」ことが可能となり「人間の分かり方」に近づいた。重要な特徴を重みづけることで人間的に「捨てることを知った」といえる。
ハードウェアの急速な進歩、インターネットの拡大によるデータの充実と相まって、ブレイクスルーを迎えている。
一方で現状の AI は特定タスクをこなす「特化型AI」で、「汎用型AI」や意識を持ち自律的判断ができるAI の実現はまだ遠い。ハードウェアも進歩しているがエネルギー効率で考えると、人間の脳と比べて数千倍の非効率さで、量子コンピュータなどの実用化が待たれている。
現状でも AI は、情報分析や、特徴・規則性の抽出や学習、情報の定量化などでは人間より強い。
一方で、少ないデータからの推論、因果関係の読み取り、トレードオフが生じる中での意思決定、ゼロからイチを生み出す発想、などでは人間に及ばない。
AI は、あくまでも人工の「知能」でしかないが、人間は「知能」以外にも新体制を伴った感性や情動があり、差別化されている。
肉体労働はすでに大部分が機械に置き換えられ、今後知的労働も多くの部分がAI に置き換わっていくだろうが、身体性をベースとした作業や、直感の要素が必要な仕事は当面は置き換わることはないと考えられる。
- BI(ベーシックインカム)の仕組みと効力
BI (ベーシックインカム)とは以下の要件を特徴とする。
・無条件給付
・全員に一律給付
・最低限度の生活を営むのに足りる現金給付
・受給期間に制限なく永続的
生活保護と比べた場合の BI のメリットとして5点を挙げる。
・シンプル
・運用コストが小さい
・恣意性、裁量が入らない
・働くインセンティブが失われない
・個人の尊厳を傷つけない
生活保護は用件が複雑で行政が大きな手間をかけて判断している。個別に判断されるため担当者の恣意が入り不公平になる。また、勤労収入を得ると支給額が減るため、働くことへの逆インセンティブとなる。
また BI は消費性向が高い(=お金が入ってくるとすぐ使う)低所得層にお金を回すため、公共事業投資などと比べてもマクロ経済活性化の効果が高い。
企業側にとっても、BIがあることで「雇用保護」の重しが外れ柔軟な人員計画ができるメリットがある。
- AI+ BI の社会で人間はどう生きるのか
AI が更に発展し知的タスクの大部分を担えるようになると、究極的には人間の生活必需品は人間が労働しなくても生産できるようになる可能性がある。
感想・考察
AIとロボティクスが更に発達して、人間の労働を超える生産性を持ち始めたら、あとは「富の分配」と「やりがい」の問題になるのだと考えていた。本書はまさにその点を突いていて、私の問題意識にきっちりはまった。
「生産される富の総和」が全人類の必要以上になれば、原理的には富を集めることに汲々とする必要はなくなる。
ただし現状の経済体制のままであれば「人工知能やロボットを所有できる資本家」とそれ以外で貧富の差が急拡大してしまう。消費性向の高い中間層が減れば経済が沈滞し全体として活力が失われてしまう。
そこで著者が提言するのは「働かざる者、食うべからず」から「働かなくても食べていいよ」への移行だ。AIやロボットが十分以上に富を生産するならば、働くことは「生きるため」じゃなくて「楽しいから」「やりたいから」になっていく。「食べるために働きたくはない」という人を余剰分で支えることは可能だし、そうすることで経済が回っていく。
個人的には大賛成だ。働かなくていいなら働きたくない。
だが、これを BI で実現するのは難しいように思われる。移行期間の財源も本書で説明するほど簡単とは思えないし、何より人々の考え方を「働かなくても食べていよ」という考え方にシフトするには数世代以上の時間がかかるのではないか。
また、長期的に見ると「人間の能力」自体が退化してしまう可能性もある。
もう一つの手段は「AIやロボティクスのコモディティー化」かな、と思う。
AI やロボット、情報も含めて低コスト化を進め「誰もが低コストでAI を活用し、簡単に生活必需品を得ることができる状態」にしながら、最低レベルは BI で補償する。
いや、働かなくていいなら働きたくないんだけどね。