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百瀬、こっちを向いて。

百瀬、こっちを向いて。

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「休日にあつまっている男女混合の仲良しグループなど、スプラッタ映画で殺害されるために搭乗する役柄でした見たことがなかったので、殺人鬼にだけは気を付けなくてはとおもった」
うん、私もそう思う。

あらすじ

4つの恋愛小説短編集。

 

1.百瀬、こっちを向いて。

高校生の相原ノボルは、存在感のない低レベルの人間だと自覚していたが、先輩の宮崎に頼まれ、百瀬陽の「恋人役」を演じることになる。

宮崎先輩は学校でも目立つ美女の神林徹子と付き合っていたが、百瀬との二股交際がばれそうになり、めくらましのため「相原と百瀬が付き合っている」ことを偽装しようとした。

演技だと分かっていても徐々に百瀬に惹かれていく相原だったが、宮崎先輩が百瀬との別れを決意したことで演技の必要がなくなり、偽装恋人の関係は解消した。

 

2.なみうちぎわ

餅月姫子は5年間の昏睡から目覚めた。

5年前、当時17歳の女子高生だった姫子は、小学生 灰谷小太郎の家庭教師をしていた。ある日学校帰りに海で溺れた小太郎を助けようとして、力尽き沈んでしまった。小太郎は助かったが姫子はそれから5年の間昏睡状態だった。

目覚めた姫子は、すでに大学生となった小太郎が昏睡状態の自分を献身的に介護していたことを知る。

 

3.キャベツ畑に彼の声

女子高生の小林久里子はライターの叔父から「テープ起こし」のバイトを頼まれた。そこである新進ミステリ作家のインタビューのテープを聞いた久里子は、それが自分の学校の国語教師本田先生のものであることに気づく。

だが本田先生はもう一つの秘密を抱えていた。

 

4.小梅が通る

 

地味な女子高生の 春日井柚木は、同じように地味な友人たちと目立たないように学校生活を過ごしていた。

ある日、クラスメートの山本寛太が転んで柚木たちの弁当をぶちまけてしまい、お詫びとして焼肉の割引券を渡す。その焼き肉屋でバイトしていた寛太は、店に訪れた柚木の妹だという小梅に一目惚れしてしまう。 小梅と会わせてくれるよう頼みこむ寛太に、柚木は条件を持ち掛ける。

 

 

感想・考察

作者は別名義でホラー寄りのミステリなどを書いているが、中田永一としては割とほのぼのした雰囲気の話が多いようだ。

とはいえ、ちょっとダークな部分とか、ミステリ的な仕掛けが紛れ込んでいるので、あっさり軽くは終わらない。

特に最初の「百瀬、こっちを向いて。」が好きだ。

二股男のひたむきな純粋さや、耐え忍ぶ女子のおだやかな強さとか、明るい部分と暗い部分が混ざり合っているが、それでも登場人物全員が魅力的で好きになる。最後の「百瀬、こっちを向いて。」という台詞には胸をゆすられた。

それ以外の話でも「嘘を抱えながら、誠実に生きようと苦しんでいる」登場人物たちの真っ直ぐさが美しく、どれもいい話だ。

最終話に搭乗する 柚木は、一部にウケ悪いかもしれないが。

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