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ブラックマーケティング 賢い人でも、脳は簡単にだまされる

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要約

脳科学者の中野信子氏と、コンサルタントとしてマーケティング理論に精通する鳥山正博氏の共著。

脳科学の知見を取り入れることで、今まではマーケティング理論で扱われていなかった「ブラック」な部分も含めて、解析可能なサイエンスにできるのではないか、と言う提言。

 

前提

脳は意外と自分で判断したがらない。判断にかかるエネルギーを節約するため、学習などを経て刺激に「自動的に」判断する仕組みが作られてきた。

この「自動的に判断する仕組み」を使い、相手を操作しようとする行為は太古から有り、現代でも詐欺的なマーケティングなどで実際に使われている。

しかし、従来のマーケティング理論「よい子のマーケティング」で、悪徳商法には触れていない。脳科学の観点から「脳をその気にさせるメカニズム」を知り、悪徳商法も含め解析していくことができれば、マーケティング理論がより科学的なモノになり、「悪」への抑止力にもなるのではないかと提言している。

 

不安を煽るマーケティング:セロトニン

幸せを感じさせる物質である「セロトニン」が不足すると、焦りや不安が生まれ判断力が低下する。

品薄商法やタイムセールなど焦りを煽る売り方は従来からある。ポイント商法なども「損をしたくない」という不安に付け込んでいる部分がある。

 

脳には個体差があり、一部の人はセロトニンの分泌が少なかったり感受性が低かったりして、特別に不安を感じやすい。

霊感商法など一見して胡散臭いものでも、不安になりやすい一部の人はハマってしまう可能性がある。仮に0.01%だけがターゲットだとしても世界では70万人超が該当し十分な経済規模になる。

また、近親者を亡くしたなど環境要因によっても、セロトニンの分泌が落ち不安を感じやすくなることもある。

 

依存させるマーケティング:ドーパミン

ドーパミンは快楽物質とも呼ばれ、生理的欲求にも優先する強い快楽をもたらす。

ギャンブルはドーパミン刺激による依存を引き起こすものの典型。必ず当たるより、一定確率で当たったり外れたりする方が刺激されることを利用しているし、ほのめかしで興奮を持続させる技術も確立している。長々としたリーチアクションのあと結局ハズレというのは実に腹立たしい。

SNSなどでも、相手からの反応を「報酬」と認識することで依存が成立する。

 

ドーパミンの受容体であるDRD4の遺伝子型により、刺激を好む「新奇探索性」の高い人、そうでない人に分かれる。新奇探索性の高い人はドーパミン刺激に貪欲でより依存に陥りやすい傾向がある。一方で新奇探索性の高い人が新しい発見をもたらすことも多く、長所と見れる側面もある。

 

愛情による理性のマヒ:オキシトシン

オキシトシンは「愛と絆のホルモン」であり、信頼関係の構築に重要な役割を果たしている。

オキシトシンは特定の相手に愛着をもたらしたり、所属する組織への帰属意識をもたらしたりする。

愛着を持った組織に「承認」されることで社会的報酬を得ることができる。また好きな相手に影響を及ぼしたいという「関与」の欲求は「承認」欲求よりも強く、AKB商法で、選挙投票券を買わせるのも関与欲求を利用している。

 

五感を使った刷り込み:前頭前野機能

判断力を司る前頭前野の機能は、加齢で低下し、アルコールや疲労などでも一時的に低下する。判断力が低下したところを狙ってくる詐欺的な商法がある。

 

相手に特定の行動を促す五感への刺激もある。

例えば「プライミング」で事前に与えたイメージの方向に誘導したり、匂いや音の刺激でも購買行動が誘導することもできる。

意識に上らないサブリミナル広告は一時期効果が否定されたが、無意識下でも認識はされており、人の判断を揺らがせる要因であることは間違いない。

 

遺伝子による差異:エピジェネティクス

国民性の違いは、遺伝的要素が大きく関わってくる。

また近年では「DNAの配列変更を伴わず、後天的な環境の影響で遺伝子発現を制御伝達する仕組みーエピジェネティクス」が発見された。

脳の個体差にもエピジェネティクス的な要因が関わっている。

 

例えば、セレトニントランスポーターの遺伝子型により、不安の感じやすさは異なり、日本とアメリカを比較すると、日本の方が不安を感じやすい遺伝子型が多い。

これに加え、日本風土の環境的要因や文化的要因がエピジェネティクス的作用で影響を与えているとも考えられる。

 

一般人のDNAを検査して個体の傾向を把握することは「優生主義につながる危険なもの」としながら、「脳の傾向的に、こういうパターンで騙されやすい」と自覚しておくことが悪徳商法から身を守ることにつながると述べる。

 

マーケティング理論の基礎として STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)がある。セグメンテーションの部分に脳の個体差による影響を組み込むと、精度が上がっていくのではないかと提案する。大量生産を前提としマスを対象としていたマーケティング理論も、悪徳商法を含めた中小へ守備範囲を広げるべきだという考えをベースとする。

 

悪徳商法を考えるときも「何となく怪しい感じがする」という段階から、「どのメカニズムを使うことに問題があるのか」を明確にすることで、科学的な規範を持つことができるということも提言する。

感想・考察

不安や愛着、依存する心理を利用した商法はすでに研究されていると思う。グレーゾーンのマーケティング手法として認知されている。

そこに脳科学を持ち込み説明を付けることはできるかもしれないが、脳の機能は複雑すぎて「じゃあどうすれば悪徳商法を防ぐことができるのか」というところまでは至らない。

ネットなどでリーチが広がった分、一部の極端なところを狙うだけで十分な商売になることを考えると、脳の個体差の認識は重要になるのだろう。脳自体を調べることには倫理的問題が付きまとうから、結果としての行動を元にセグメンテーションを取っているのだろうが、どこかでブレイクスルーが必要なのかもしれない。

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