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暗いところで待ち合わせ

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あらすじ

自己の影響で完全に視力を失った女性 本間ミチル は、父を亡くした後独り暮らしをしていた。

ある日、ミチルの家から見える駅で、男が線路に突き落とされ殺される事件が起きる。容疑者の男は逃走中で捕まっていないという。

印刷会社に勤める大石アキヒロは、先輩の松永トシオから陰湿なパワハラを受けていた。周囲も巻き込んで嫌がらせをする松永に対し、アキヒロは殺意を抱く。

その日、アキヒロは駅で電車を待っていた松永の背中に近づいた。

事件現場から逃げ出したアキヒロは、ミチルの家に逃げ込んだ。目の見えないミチルを怖がらせないように、居間の片隅に潜んでいた。

目の見えないミチルだったが、家の中に何かの気配を感じていた。冷蔵庫の中の食べ物が減っていることから、誰かが潜んでいるのではないかと疑い始める。

ミチルはストーブの火を危険に強めたまま寝たふりをし様子をみた。危険を察したアキヒロは静かに火を弱めたが、ミチルは何者かの存在を確信した。すぐに慌てて動くのはかえって危険だと考え、気づかないふりを続ける。

その後、ミチルは棚から食器を取り出すときに転んでしまう。ところが落ちてきた土鍋を誰かが受け止めて助けてくれた。闇に潜む何者かに対しミチルは「ありがとう」と声をかけてしまう。

ミチルはアキヒロの分の夕食も作り、彼を受け入れたことを示そうとした。

ミチルの友人カズエは、ミチルが一人で外出できるよう練習を勧めるが、ミチルは恐怖心から拒絶する。その態度に怒ったカズミはミチルから離れてしまう。

大切な友人を失うことを怖れたミチルは、カズエの家まで歩いて謝りに行こうとするが、いきなり一人で外出して目的地に着くことはできなかった。

その時、アキヒロが無言でミチルに手を差し出した。

感想・考察

乙一さんの作品「失はれた物語」にも、片腕を残しすべての感覚を失った夫とその妻の話があったが、感覚に制限があるからこそ思いが深まる、という描写がとても上手い。読んでいて、その限定された世界に入り込んでしまう。

二人とも世界との関りを避けるように生きてきたけれど、誰かと触れ合って初めて、本当は一人でいることが辛いと気が付く。

繊細過ぎる二人が、まるで子猫を驚かせないよう気を付けるように、慎重にゆっくりと近づいていく。制限された感覚の中での触れ合いが、臆病な二人にちょうどよいペースを生み出す。

そして二人とも、誰かに触れることを経験し、少しずつ少しずつ成長していく。

乙一氏の作品にしては珍しくすっきりしとしたハッピーエンドで、心温まる作品だった。

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