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さよなら妖精

さよなら妖精

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あらすじ

1991年4月、高校生の守屋路行と大刀洗万智は、雨の中で佇む少女マーヤに出会う。
ユーゴスラビアから来ていたマーヤは、身をよせる予定の親戚が亡くなり途方に暮れていた。
守屋は旅館の娘である同級生の白河いずるに頼みマーヤの身元を引き受けてもらう。

マーヤは守屋たちから日本の文化を学ぶ。弓道の大会で、的に当てても叱られ、的を外しても褒めらるのは何故か。
めでたいはずの紅白饅頭が墓に供えられていたのは何故か。
「いずる」という名前の由来は何か、などなど。
日常のちょっとした不思議から「哲学的な意味」を探っていく。

ユーゴスラビアは貧しい国だった。
6つの国の連合だが内戦による分裂が始まっていた。お金のある国や資源のある国について学び、いずれは政治家になりたいというマーヤ。
守屋はほとんど知らなかったユーゴスラビアについて学び始める。

ユーゴスラビアでの内戦が激化し始めた7月、送別会の後、マーヤは帰国していった。

マーヤが帰国してから1年が過ぎ、ユーゴスラビアは分裂してしまっていた。
守屋はマーヤに会いに行きたいと願ったが、マーヤはユーゴスラビアの中の「スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、北マケドニア、モンテネグロ」のうち、どの国の出身なのか最後まで伝えなかった。

守屋と白河は、マーヤと過ごした二か月を思い出し、彼女の出身国を推理する。

大刀洗は、彼女の居場所を胸に止めていた。

 

感想・考察

崩壊しかけていた故国のため、強烈な知識欲で日本について学んでいたマーヤ。
普段は人懐っこく親しみやすいが、漠然と「何かをしたい」からユーゴスラビアに行きたいという守屋に対しては、今は観光の時期ではない」と冷たくあしらう。

頭の回転が速く先まで読めてしまう分言葉が少なく不愛想に見える大刀洗。
そんな彼女が感情を爆発させる一瞬。

二人のヒロインの印象が強すぎて主人公 守屋 が置いていかれる感じだが、その分、感情移入しやすく物語に没入できた。

当初は「古典部シリーズ」として構想したらしく、作品の雰囲気やキャラの印象が被るところもあるった。だがこのあと、日常系ミステリから国際政治問題などハード方向にかじを切り「ジャーナリスト大刀洗万智」のシリーズが生まれた。続編となる「王とサーカス」は硬派な傑作だ。

 

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