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麦本三歩の好きなもの

A life is not a problem to be solved, but a reality to be experienced.  『麦本三歩の好きなもの』

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あらすじ

麦本三歩は食べるのが好きで本が好き。「怖い先輩」「優しい先輩」「おかしな先輩」たちと大学の図書館で働く。そんな彼女の日常を描く短編集。

麦本三歩は歩くのが好き
無意味に散歩するのが好き。歩くのが好きなのは、足を前に出すだけだからだ。

麦本三歩は図書館が好き
麦本三歩は本好きが高じて図書館に勤めるようになった。ある日、茶髪の女の子に本を捜して欲しいと頼まれる。

麦本三歩はワンポイントが好き
地下で作業をしていると停電で真っ暗闇となる。闇の中で愚痴を探して格闘する麦本三歩。

麦本三歩は年上が好き
朝食を食べ、ラーメンを食べ、たいやきを食べ、ラジコを聞いて昼寝をし、キムチ鍋を作って食べる。何にも特別なことがない休日。

麦本三歩はライムが好き
麦本三歩が電話でライムを踏む。

麦本三歩は生クリームが好き
「優しい先輩」が学生を注意する姿に感動し教えを乞う。先輩は彼女を連れ、読み聞かせボランティアに行く。

麦本三歩は君が好き
大学時代の男友達が近所に引っ越してきた。ある休日、一緒に水族館に来た時、彼の様子が急におかしくなる。

麦本三歩はブルボンが好き
スーパーで「怖い先輩」と偶然会い、家に招かれ手料理をごちそうになる。麦本三歩はブルボンのお菓子を提供し、その素晴らしさを熱弁する。

麦本三歩は魔女宅が好き
自分に酔い、いつもと違う自分を演じる麦本三歩。ふと醒め、その感覚を失ってしまうときがくる。

麦本三歩はファンサービスが好き
出版社に勤める大学時代の女友達と温泉旅行に来た。お互いが相手のファンで、ファンサービスに元気をもらう。

麦本三歩はモントレーが好き
仮病でさぼった麦本三歩。シフトに入っていなかった「おかしな先輩」に本屋にいるところを見られてしまう。「おかしな先輩」はそのことを誰にも言わなかったが、罪悪感に苛まれた麦本三歩は「おかしな先輩」に相談する。

麦本三歩は今日が好き
前日に買ったチーズ蒸しパンを思い布団の引力から抜け出す麦本三歩。
仕事でミスして怒られる心配と、図書館の空気を吸う楽しみ、お昼ご飯を選ぶ楽しみ、プリンを買って食べる楽しみを比べ「楽しみの方が多い生活だな」と思う。

感想・考察

「無意味と大切じゃないは一緒じゃない。
そして無意味は意味の引き立て役でもない。
無意味な日常があるから、意味ある日が大切に思える、とかじゃない。
無意味な日々も、意味ある瞬間もどっちも大切で、
それが一番いいということなんだとのんきに思う」

仕事で先輩に怒られたり、友達と旅行に行ったり、美味しいものを食べたり、仕事をさぼってみたり、特別じゃない、特に意味があるわけじゃない日常が大切で素晴らしいと思える。

目的のために生きるだけの日々は疲れてしまう。
「いまここ」の経験を楽しみたいと思う。
A life is not a problem to be solved but a reality to be experienced. というキルケゴールの言葉が好きだが、この作品にもそういう実存主義的な感覚が見えてくる。

そして住野よる氏の描く女性は、あざとくかわいい。麦本一歩は特にかわいい。
あざとくて、それを十分に自覚している。
「ずるいことをしたり、人に嘘をついたり、でも生きていかなくちゃいけなくて、自分をそんな嫌な奴だと思いたくなくて、だから他人をたっぷり甘やかして、その代わりに甘やかしてもらって、必ずちょっとだけ反省して、生きていくしかないんだと思うよ。
少なくとも私はそれを自覚して生きていけたらいいなと思ってるし、自覚して生きている人が好き」

「あざとさ」は自分を客観視できる知性と自律があるからできることで、そういう賢しさが自分は好きなのだと思う。だめかな。。

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