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くちびるに歌を

大人の僕も傷ついて眠れない夜はあるけど 苦くて甘い今を生きている 『くちびるに歌を』

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あらすじ

アンジェラ・アキの「手紙〜拝啓十五の君へ〜」モチーフにした物語。のちに映画化もされている。
離島で暮らす合唱部の少年少女たちが、それぞれの人生を切り開いていく。

仲村ナズナは男子を嫌っていた。
父親が愛人を作り母親が末期がんで苦しんでいたときも、死んでしまったそのときも、その場にいなかった。その後は祖父母の家で育ったが、男性を信じることができないでいる。
女子部員だけの合唱部で友人たちと歌うことを楽しでいた。

桑原サトルには自閉症の兄がいた。
親戚の経営するかまぼこ工場で働いている兄の送り迎えをしながら、自分を必要としてくれる兄のため自分は生きていると思っていた。「兄が自閉症だったから二人目の子供を作った」という両親の言葉がサトルの心に根を張っていた。
やがて島を出て旅立っていく同級生たちと違い、兄の世話をしながら生涯この島で暮らしていくつもりで日々を過ごしている。
学校では「筋金入りのエリートボッチ」として存在感を消して生きていた。

柏木ユリは、臨時音楽教師として中学にやってくる。
ナズナたちが3年生になった新学期から、産休に入った合唱部顧問を代行する。
離島の出身だった柏木は東京の音大に進み音楽の道を志したが、音楽で道を成すことができずニート生活を続けていた。

黒髪美人(映画では新垣結衣)の柏木に憧れた男子生徒が何人か合唱部に入部してくる。男子と一緒に活動することを嫌うナズナは反感を覚えるが、顧問の柏木も合唱部の部長も、本気で合唱をするなら拒む理由はないと受け入れた。

偶然が重なってサトルも合唱部に入部することとなる。
兄の送り迎えがあるので部活に入っていなかったが、自分の意志で「部活をやりたい」と両親に頼む。父親には反対されたが母親が後押しし、合唱部での活動を始める。

合唱部は合唱コンクールの地区予選勝ち抜きを目指していた。
合唱コンクールでは全参加校共通の課題曲と自由曲の2曲で競われる。その年の課題曲は「手紙〜拝啓十五の君へ〜」に決まり、柏木は15年後の自分に宛てた手紙を、合唱部員みんなへの宿題とした。
さらに、柏木が作りかけて放置していた曲に、部員たちが歌詞を付けて自由曲とした。

真剣に頑張ってきた女子たちと真面目に練習しない男子との対立を乗り越え、合唱部はコンクールに挑む。

感想・考察

あなたは15年前に何をしていましたか。
15年前のあなたが今の自分を見たら、何と言うでしょうか。
15年後のあなたに伝えたいことはありますか。


大人になってから振り返ると、15歳のときの悩みは小さなものだったと思えるかもしれない。でも、大人になった自分も何かに苦しみながら生きているから、15歳の自分の感受性が愛おしくなり、そのときの必死さに力をもらえる。

この話では、15年前に15歳だった柏木と、現役15歳の少年少女の出会いが物語を動かす。それぞれの視点が重なり合い、人間同士のドラマを生む。
全員が真剣に毎日と取り組んでいて、仲間との繋がりをゆっくりと作り上げ行く。

色々なものを無くしてしまったようで悲しくなるけれど、頑張ろうという力ももらえる話だった。
良い作品だと思う。映画版も見てみよう。

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