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依頼人は死んだ

『依頼人は死んだ』

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あらすじ

探偵事務所に臨時雇いで働く葉村晶 が活躍する物語。季節ごとに1編、全部で9つの連作短編集。

濃紺の悪魔
探偵の葉村晶は、大成した実業家 松島詩織の身辺警護を請け負う。
詩織は、植木鉢が落ちて着たり、暴走した車が突っ込んできたりと多くの敵に狙われていた。
その数日前に詩織はバーで居合わせた「首に青あざのある男」に「自殺したい」と打ち明けた。その男は「300万円であなたを殺す」と請け合う。
詩織は冗談のつもりでいたが、銀行口座から300万円が抜き取られ、その日から様々な嫌がらせが発生していた。

詩人の死
晶の友人である 相場みのり の婚約者西村が自殺してしまう。。
みのり は新居とする予定だったマンションに晶を誘い、ふたりは共同生活を始めた。
西村は詩人で、結婚直前には名の通った出版社から詩集を出して完売し前途洋々たる状況だった。だが、みのりの母親と話した直後、彼は急に実父の元に向かい、その途中で自殺と思われる自損事故を起こしていた。
晶は西村の自殺の原因を探っていく。

たぶん、暑かったから
晶は建設会社に勤めるOL 市川恵子が起こした殺人未遂事件動機の調査依頼を受けた。
総務部に所属する恵子は、人事課を訪れ課長の佐久間と話し込んでいた。その後、佐久間がうめき声をあげて倒れ、ドライバーを握って茫然としていた恵子が逮捕された。取り調べに対して恵子は刺した状況はよく覚えていないと話している。
捜査に乗り出した晶は、会社内での「内部告発の犯人捜し」が、事件と関わっていることを突き止める。

鉄格子の女
晶は大学生の榊から、5年前に亡くなった画家 森川早順 に関する文献目録作成の依頼を受ける。
目録を作るうち、森川がある時期から急激に画風を変えていたことに興味をもった。彰は榊の姉と共に森川の家に行き、閉ざされた中庭を見つける。

アヴェ・マリア
探偵の水谷は、晶の紹介で麻梨子と付き合い同棲していた。クリスマス・イブの日、麻梨子は「ちょっと出かけててきます」という書置きを残していなくなっていた。
水谷は、1年前に教会で老婦人を殺した 佐原かおる から「事件があった日に何が起こっていたのかを調べて欲しい」という依頼を受けていた。
水谷が中間報告のため探偵事務所長の携帯に連絡すると、何故か晶が電話を受けた。

依頼人は死んだ
晶は共通の友人をもつ佐藤まどかから相談を受ける。
まどかは市役所から「健康診断の結果、卵巣がんが疑われる」という手紙を受け取ったという。実際にまどかは健康診断に行かなかったのだが、誰かと間違えているなら問題だと心配していた。だが晶が「間違いなく悪戯」だと断定し、まどかは安心したようだった。
だがその数日後、まどかが死んだという一報が入る。
がんであることを知らせる封書が部屋にあったことから、まどかは自殺だと判断されていた。だが晶は「まどかがその手紙がデタラメであると認識していた」ことを知っている。
まどかを救えなかったことに自責の念を感じた晶は、事件の調査に乗り出した。

女探偵の夏休み
夏の盛りに、晶はみのりに誘われ、オーシャンビューの歴史あるホテルに宿泊に来ていた。
ホテルには、会社社長、イラストレーター、薬剤師夫婦など、毎年決まって訪れる常連客がいた。

私の調査に手加減はない
中山慧美は10年前に亡くなった友人 由良香織の夢に悩まされているという。香織が死んだ時期と前後して、慧美は二人の子供を産んでおりちょうど疎遠になっていたが、その時期のことが気になり彼女が死んだ原因を探ってほしいと晶に依頼した。
香織は事故死と報じられていたが、夫が愛人との間に子供を作り離婚に至ったことから精神的に追い詰められ自殺したものと思われた。だが晶が捜査を進めるうちに、香織を死に追いやった本当の原因が見えてきた。

都合のいい地獄
晶は、数年前に松島詩織を追い詰めた「首に青あざのある男」と再会した。
男は晶に「友人が殺された事件の動機を知りたいか、みのりの命を救いたいかどちらかを選べ」と選択を迫る。
晶はみのりを救うことを選び、男が指定した場所に行くと、ちょうどみのりが現れた。みのりは誰に強制されたわけでもなく自分の意志で、その時その場所に言ったのだという。
次に男は「友人が殺された事件の動機か、探偵事務所の同僚か、どちらかを選べ」と言う。晶は一瞬の躊躇の後、同僚を救いに向かうと、同僚に自動車が突っ込み同僚は重傷を負ってしまった。同僚は「なぜか足が動かなく」なり、車を運転していた女性は「なぜかブレーキが踏めなく」なったという。

感想・考察

主人公の葉村晶が実に魅力的だ。
サバサバとした冷静さを装いながら「人が死に至った理由」を追求することに熱意を傾ける。探偵としての職業的な責任感の範疇を超えているように見受けられる。「晶のせいで」自殺してしまったという姉の真意を知りたいという思いから始まっているのだろう。
だが本巻の最終話で晶は「死を納得できる理由など、見つけられっこない」と断じる。「無意味な死は地獄だから、死に理由を与えている」という犯人と「納得できないものを抱えながら生きていかなければいけないのが人間」だという晶の対立は、背筋にゾクリと来るものを感じた。

連作短編集で各話は独立しているが、「紺色のBMWに乗った、首に青あざのある男」が、ちょこちょこと登場して黒幕っぽく登場していている。「日々の事件解決+黒幕との対立」というコナンフォーマットに準じている。
続きを読んでみよう。

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