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武士道セブンティーン

武士道セブンティーン

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あらすじ

武士道シックスティーン」の続編。
前作では、幼いころから剣道にのめりこみ「徹底して勝負にこだわる」磯山香織と、事業で負けた父親を見て「勝敗から離れて成長する」ことを楽しむ西荻早苗の、二人の女子高生の対比が描かれていた。

早苗は香織と一年を過ごした東松高校を離れ、九州の剣道強豪である 福岡南高校に転入した。同級生となった黒岩は「剣道はもっと高度に競技化するべきだ」という理想を持ち「勝つため」の練習を推し進めていくが、早苗は東松とは全く違う福岡南剣道部の取り組み方に馴染めないでいた。

インターハイ団体戦で福岡南の次鋒となった早苗だが、黒岩が策略を巡らせ先輩を押しのけて早苗を参加させていたことを知って不満がたまり、剣道を楽しめなくなっていく。

早苗はインターハイの会場で香織と再会し、福岡南で苦しんでいることを告げる。香織は早苗を、かつて二人が出会った横浜市民大会に出場するよう誘い出し、香織が学んできた道場の師範に引き合わせた。

早苗の父親が東京に転勤となることが決まり、東松に戻れる可能性が出てきたと香織に伝えたが、香織は「東松の剣道が気に入らないから逃げるようなことはするな。来るなら相手に勝ってから来い」とけしかける。

早苗は黒岩に果たし状をしたためた。

感想・考察

前作で香織の不器用さをみていると今作での彼女の成長には涙が出そうになる。
「どんな手を使っても勝つ」ことにこだわっていた香織が、友人の悩みを一緒に悩んだり、後輩を導こうとしたり、かつての仲間を助けようとしたりするのが、なんだかうれしくなる。
「どんな手を使っても」というしたたかさは残しつつ、そのしたたかさを「争いをおさめ、人を助けるため」に使おうとしている。

思えば、香織が心酔している宮本武蔵の「五輪書」は、負けたら即死ぬという戦国の時代背景で書かれたものだ。本作では新渡戸稲造の「武士道」が前面に出てくる。これが書かれた明治時代には「武士道」は為政者が秩序維持するための「徳目」になっていたのだろう。

香織は「戦いに勝つこと」から「争いをおさめること」に力を使うようになっていく。

一方で早苗も「武士道」の精神に近づいていく。
「戦いをおさめるのが武士」であり、「武士道」は暴力を後ろ盾にしながら暴走することのないように自制している。
「剣道」も「戦いの手段」を原型としながら、暴力が暴走するのを防ぐような決まりごとが設けられている。そういう精神性を大事にする見方からは、勝率を上げることを目指す「剣道の競技化」というのは納得できないのだろう。

前作では対極的な立場にあった早苗と香織は離れ離れになってしまったが、いつのまにか同じ道を目指して歩んでいる。
この辺の展開は本当にかっこ良すぎだ。

続編「武士道エイティーン」も読んでみよう!

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