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死にぞこないの青

殺してもいい。でも、殺されてはだめなんだ。『死にぞこないの青』

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あらすじ

小学校5年生になったマサオは、係分担での行き違いで新任教師の羽田から誤解されてしまうが、実際の状況を話して弁解せず嘘つき呼ばわりされてしまう。

当初は評判が良かった羽田だが、間もなくクラスで反感を買うようになる。それを自覚した彼は、マサオをスケープゴートとする構造を作り上げた。

それまで、マサオは内気ながらクラスメートと良好な関係を築き、親しい友達もいたが、羽田が意図的に貶めることで羽田への反感がすべてマサオに向かうようになり、徐々にクラスで孤立を深めていく。

その頃、マサオは学校で「アオ」を見つける。青い顔をして口は縫い付けられ、上半身は拘束着を着けられた、マサオと同じくらいの年頃の少年だった。
アオはマサオ以外の人には見えないようだったが、折に触れマサオの前に現れ悲しみを湛えた目で彼を見つめていた。

ある日、2人のクラスメートに「いじめ」を受けたマサオはアオに乗っ取られ反撃し2人を病院送りにした。
羽田は自分の行為を露見させないために事実を伏せ、マサオには暴力的な制裁を課した。

夏休みに入り、アオはマサオに羽田を殺す決意を促す。
マサオは羽田の家に忍び込むが、羽田に見つかって風呂場に監禁されてしまう。羽田はそれまでのように恐怖でマサオを支配しようとするが、アオの助言を受けたマサオは羽田の脅しに屈しない。

羽田は、睡眠薬でマサオを眠らせ山奥に連れ込み殺そうとしたが、アオのアドバイスで眠りに落ちるのを逃れたマサオが反撃に転じる。

感想・考察

イジメの構造に切り込んだ話だ。

マサオは内気で自己主張が弱い。他者との関係で問題があると「自分のせい」だと抱え込んでしまう傾向がある。
これはマサオの個性の範囲であって、クラスで周囲に溶け込むのに難しさを感じることもありつつ、「心地の良い人間」と捉えてくれる友人もいた。

だが、自己主張の弱さを食い物にする人間がいる。

本書の羽田は極端で、実際にここまで意図的に「最下層のスケープゴートを作ることで組織の不満をガス抜きしよう」と考える人は多くないのだと思う。

それでも、無意識のうちに「自分より下の存在がいることの安心感」を求めてしまうのが人は多いのだと思う。いや、ほとんどの人間がそうなのではないか。


マサオは自分の内面と向き合い、戦うことを選んだ。
「殺されるくらいなら、殺してしまえ」というのはだが、長い間自分を抑え続けてきた人間が壁を超えるには、意識の面で大きな飛躍が必要なのだろう。

実際にこういう環境おかれたら、マサオにも一時期アオが見えなくなったように「見たくない悔しさ」に蓋をして、痛みから目を背けてしまうのだと思う。
そこで戦ったマサオとアオの物語は心に刻んでおきたい。


一方「自分より下の存在を求める気持ち」についても、一つの答えが示されている。最後に羽田の代わりに来た教師は「自分で精いっぱいやった結果がこれなら仕方がない」と自分を受け入れている。
「他者との相対評価で自分を位置づけるのではなく、自分の内面に基準を持つ」という強さがある。
本書の登場人物の中で一番カッコいいのが、ちょっとだけ登場した交代教師だった。

読んでいて気持ちの良い本ではないが、一読する価値はあると思う。

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