掟上今日子の旅行記
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あらすじ
眠ると記憶がリセットされてしまう「忘却探偵」掟上今日子シリーズ第8弾。
今回は隠館厄介が語り手となる長編。
隠館厄介は旅行で訪れたパリで「偶然」掟上今日子と出会う。
冤罪体質の隠館は何度も掟上に救われていたが、掟上の方は隠館のことを覚えておらず「初めまして」の出会いだった。
だが掟上は今回も隠館を「助手」として採用することを決める。
「怪盗淑女」を名乗る人物から「エッフェル塔を盗む」という犯行予告がパリの警察に届き、身元不明の代理人を経由して掟上に捜査依頼がきたのだという。
一日しか記憶が持たない掟上は数日に及ぶ捜査には向かないが、身元不明の依頼人からの破格の条件に惹かれて引き受ける。隠館は助手として「ボディーガード兼眠らないように見張る係」を任ぜられた。
ところが、掟上がホテルの自室で着替え終わったところ、何者かに眠らされてしまう。
掟上は自分の腕に「私は掟上今日子。探偵。一日ごとに記憶がリセットされる」と書くことで、目覚めるたびに自分のアイデンティティを取り戻しているのだが、彼女を眠らせた犯人は「探偵」を「怪盗」と書き換え、それを見た掟上は自分を「怪盗淑女」だと認識してしまう。
掟上はエッフェル塔を盗み出すための作戦を練る。
だが「自分がどうしてエッフェル塔を盗もうと思ったのか」という動機が分からず、本当に物理的に盗もうとしたのか、パリ市民から盗むという意味で姿を隠そうとしたのか、それとも他の方法が良いのか悩む。
掟上に罪を犯して欲しくない隠館は強引に「見えないようにする案」を推し、その計画を練っていた。
そしてその頃、掟上を罠にはめた犯人が密かに動き出す。
感想・考察
前作「掟上今日子の家計簿」がミステリ寄りの話だったが、今回は掟上今日子を前面に押し出したキャラクタ小説的な感じ。シリーズのファン向けだろう。
面白かったのはエッフェル塔の歴史がミステリの鍵になっているところだ。
「エッフェル塔を盗む」という一見不可能な犯罪をどのように実現するのか、無理やりな飛躍ではなく、エッフェル塔自体が持っているメッセージを活かしている。
ギュスターヴ・エッフェルがエッフェル塔を設計した当時は無線通信が普及しておらず、万博の飾り物として作られ万博終了後には取り壊される予定だったが、その後「偶然」戦時の無線通信やその後の放送に活用され残されてきた、というのが定説だ。
しかしながら、エッフェル塔をの構造は通信や放送に最適で「本当に偶然の産物だったのか」という疑問もあるのだという。
またさらに、フランスからニューヨークに贈られた「自由の女神像」にもギュスターヴ・エッフェルが関わっていたことを聞くと、そこにも何かの意志があったのではないかと思わされる。
史実をストーリーに組み込んで、うまいことまとめ上げるのはさすがだ。