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シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成

シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成

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要約

データ×AI が変えるもの

人間が読み切れる範囲でプログラムを作るのではなく、大量のデータをアルゴリズムで分析し人間の認識を超えた判断ができるようになってきている。
計算機×アルゴリズム×データが AIであると言える。

現時点でのAIは汎用的なものではなく特定用途向けの「弱いAI」だが、弱いAI同士を組み合わせたソリューションが技術革新を起こしている。

近い将来にすべての産業が「データ×AI化」していくのは必然になる。
AIの活用によりサービス価値が上がればより多くのユーザが得られ、より多くのデータからさらに打ち手の質を上げられるというフィードバックループが生まれる。

個々の企業は核となる要素を作りこみ、それ以外は外部のデータとAIを使うのが一般的になる。例えば Uber は配車エンジンを徹敵的に作りこんだが、地図や決済システム、通知システムなどはGoogleなどのAPIを利用している。

変化は予想以上に早く進んでいる。
世界企業の上位を見てもここ数十年での変化は急激で、重心が「規模の経済によるモノづくり」から「妄想し、カタチにすること」に移ってきている。

日本の現状と勝ち筋

日本はここ15年ほど一人負けを続けている。特に一人当たりGDPの落ち込みは激しく、生産性が著しく低下している。
ICT(情報通信技術)で負けただけではなく、その他の産業でも同じように生産性が低下してきている。


1.日本の伸びしろとしての「若年層」「女性」「シニア層」
日本では30%の世帯が貯蓄を持っておらず、高度成長期と比べて貧富の差が拡大している。才能のある若者が十分な教育を受けられていない可能性が高い。

女性が家事に費やす時間は世界標準レベルだが、男性の家事負担は突出して少ない。労働効率を上げ男性が家事に協力するようになれば、女性の社会進出の余地はまだまだ大きい。

また日本では60歳から65歳で定年となるが、死亡年齢の最頻値は男性88歳。女性92歳と相当な高齢で、80代後半くらいまでは現役で働ける人も多い。勤労時間のフレキシビリティを上げ、報酬を生み出す価値ベースとすることで、シニア層も取り込んでいく余地がある。


2.科学技術の急激な衰退
2016年に科学技術論文数は中国が米国を抜き世界一となった。日本は2005年くらいまで米独に次ぐ3位だったが、今は6位で人口が半分の韓国に並ばれつつある。

日本の大学のプレゼンスも低下してきている。15年ほど前までは東大が世界の超有名大学の次くらいに付けていたが、現在では世界42位まで落ち込んでいる。アジアだけを見ても中国の清華大学や北京大学、シンガポールのNUS、香港の香港大学、香港科技大学に負けている。
データ×AIで重要となる計算機科学分野で遅れが際立っている。


3.産業革命における日本を振り返る
18世紀の産業革命時、新エネルギーと技術が生まれた第1フェーズに日本は関与していなかった。だがその技術が実用化されていく第2フェーズで入り込み、産業同士の繋がりがより複雑なエコシステムを生み出していく第3フェーズでも成功した。

データ×AI では、第1フェーズで日本は出遅れてしまっている。だが、基礎技術の応用が進む第2フェーズ、インテリジェンスがネットワーク化していく第3フェーズでキャッチアップすることは不可能ではない。
AIの出力側である産業が厚く、情報科学においても素養はある。

国家レベルで AI-Ready な社会を作り上げていくことが必要だ。

日本の強みとして、夢を描く「妄想力」があり、スクラップビルドでのし上がる経験を重ねてきている。本当に必要なときには、年配が邪魔をせず若い世代に託してきたこともある。

「もう一度ゲームチェンジを仕掛けよう」と提言する。

求められる人材とスキル

変化の激しい時代には「あるべき姿を見極め、いい仕事をし、いい人材を育て、そのためのリソースを適切に配分する」国家レベルでのマネジメントが必要だ。

価値創造の重点が、ハードワークによる「量的拡大」から、既存のものを変える「刷新」へ、さらにはゼロからイチを生み出す「創造」へと移ってきている。
刷新や創造が大事になる時代には、周囲と異なる「異人」が必要となる。多くの人が目指すわけでない分野で変態的なこだわりを持つ人、夢を描き形にする人、自分でできないことでも頼れる人的ネットワークを持っている人が重要だ。

データ×AI の力を解き放つためには、課題を理解し解決するビジネス力・情報科学を理解するデータサイエンス力、データを実装運用できるデータエンジニアリング力の3つが必要。

知覚による入力、情報の処理、外部への出力の流れで、インプットとアウトプットを繋ぐことが「知性」である。

インプットを増やしすぎると「集め過ぎ」「知り過ぎ」の状態に陥り、大半のことが既知のことで説明できるようになり、新しいアイデアや気づきが生まれなくなる。

知的活動の具体的なイメージとしては
①知覚経験の抽象化
②文脈に応じた意味判断
③言語的な施策
④新しい知的理解の創造
⑤課題の見極めと解決
⑥質的な軸の整理
⑦点と点を繋ぐ
⑧夢を描いて形にする
⑨異質なものを組み合わせる
⑩俯瞰して意味合いを出す
などがあげられる。

AIは外部データをからパターンを認識することはできるが知覚することはできない。また上記のような知的活動はできない。
AIと人間の知性は質的に異なるものだといえる。

データ×AIの時代に人間に求められるのは、
自分の経験として対象全体を受け止め、それを構造的に見て、知覚した内容を表現し、物事の意味合いを深く何度も考えることだろう。

「未来を創る人」をどう育てるか

ある程度の理数・デザイン素養を持ち、課題の設定と解決ができる「リテラシー層」、データ×AIの専門家である「専門家層」、活動の中核となる「リーダー層」の3層を育てる必要がある。

空気を読むのではなく、論理的に考え明確に伝えるための「国語」と、データ×AIの基本となる「数理・統計的な素養」がすべての層での必修項目となる。
道具としての世界語(英語・中国語)を身につけることも必要になるだろう。

専門家層、リーダー層の育成を考えると、現在の大学教育、特にPhDレベルの層の薄さが大きな課題。
欧米の大学ではPhDレベルであれば、自己負担なく研究に集中できるが、日本では経済的負担が重く、さらに社会でもPhDの受入れが進んでいないことから、やるだけ損だという逆インセンティブが働いてしまっている。

日本の科学技術予算は国力に見合っていない。
アメリカは日本の5倍、中国は日本の4倍ほどの科学技術予算を投入している。
大学の予算も厳しく、優秀な教員も学生も海外に流出し始めている。

必要なのは、シニア世代が大部分を使っている健康保険や年金などの社会保障費を、3%ほど効率化して運用すれば十分捻出できるレベルの金額であり、将来を見据えたリソース配分を行っていく必要がある。

残すに値する未来

未来は不確実だが、自分たちで作り上げていくことのできる部分もある。
著者は都市集中型ではない選択肢として「風の谷プロジェクト」を進めている。

感想・考察

ざっくりまとめると、
・データとAIの組み合わせが世界を変えるよ。
・日本は遅れているけど頑張って追いつこうね。
・とくに教育が大事。若い世代にリソースを振り分けよう。
・より良い未来をデザインして自ら作り出していこう!
ということだろう。

論旨が明確で、関連データも豊富に掲載されているので、実際に抗議を受けているように分かりやすい。

正直、AIの実力はよく分からない。
世界は既に大きく変わったが、この先どういう風に帰結するのか。

AIやロボティクスは、人口減少局面で人を支え持続可能な世界を作っていくのか、あるいはデータの蓄積が強さになることから格差を拡大させてしまうのか。

ただ、アラン・ケイの引用にある通り「未来を予測するのに一番いい方法はそれを発明すること」だ。
未来は目指すものであり、創るものなのだ。

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