殺人犯 対 殺人鬼
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あらすじ
児童養護施設で暮らす中学生 網走一人は、同じ養護施設で暮らす五味朝美と親しくなる。
五味は生活の足しにすると言って空缶を集めていたが、暴力団員の父を持つ剛竜寺翔とその取り巻きに「ごみを漁ると養護施設の品位を落とすからやめろ」と言われ、いじめられていた。
デザイナーになる夢を持つ五味は、デザイン帳を盗まれたことをきっかけに、自殺を試みる。崖っぷちに立つ五味を見つけた網走は彼女の元に駆け寄り、結局彼女は転落してしまう。
剛竜寺たちが五味を「ごみ」と呼んでいたため、網走も彼女のことをそう呼んでいたが、実際は「いつみ」と読むことを知り愕然とする。
転落した五味は奇跡的に一命をとりとめたが意識不明に陥っていた。
網走は剛竜寺たちの殺害を計画する。
養護施設の職員が不在となった夜、網走は剛竜寺の部屋に侵入するが、剛竜寺は既に何者かによって殺されていた。左目を繰りぬかれ金柑を嵌めらるという犯人の猟奇性を感じさせる死体だった。
網走は自分以外の殺人者がいることに驚愕したが「自分自身で殺さなければ意味がない」と考え、その先の殺人計画を進めることにした。
網走は次なるターゲットとなった御坊長秋が一人となった好機をとらえ、彼を崖から突き落として殺害した。
ところがちょうど同じころ、飯盛大が全身に黒ペンキをかけられた異様な姿で殺されていた。
その後、養護施設の建物が火事になる。中に入り込んだ網走は次のターゲットを音楽室で殺したが、雨で鎮火した後に調べると、音楽室にはもう一人の女性の遺体もあった。
そこで網走は、自分以外のもう一人の殺人者の正体に辿り着いた。
感想・考察 – ネタバレあり
ネタバレを含むので、未読の方はご注意を。
殺人犯の立場から、もう一人の殺人者を探す「フーダニット」としては、フェアな本格ミステリとなっている。
だが、犯行の動機を探る「ワイダニット」としてみると、実にぶっ飛んでいる。
いや、叙述自体はフェアで分かりやすいくらいなのだが、とにかくオチの衝撃がすごい。
いじめへの復讐という自分なりの理を持って殺しを重ねていく「殺人犯」の網走と、猟奇的で殺人自体を楽しむ「殺人鬼」の対立と見える構図で物語は始まる。
だが最後の被害者の名をみて、網走の「理」が分からなくなる。
そこから、本当の動機につながる被害者たちの「ミッシングリンク」を知り、「殺人犯」と「殺人鬼」が逆転する。
倫理的な部分はすっ飛ばして、純粋に論理パズルとして楽しむスタイルなので、好き嫌いは分かれると思うが、好きな人には最高だろう。
『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』とか読んで楽しめた人であればオススメ。