綾志別町役場妖怪課 暗闇コサックダンス
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あらすじ
『朧月市役所妖怪課』シリーズの続編。
シリーズ主人公の宵原秀也が北海道の綾志別町に舞台を変えて活躍する。
若者に地方自治体を巡回させ経験を積ませることを目指した自治体アシスタント制度が作られた。公務員であった父に憧れていた宵原秀也は、自治体アシスタントに登録し地方自治体での仕事を始める。
前作では、宵原は朧月市役所の妖怪課に配属された。
朧月市は日本中の妖怪が集められ隔離された場所で、妖怪課では妖怪と住民のトラブル解決に当たっていた。
宵原は、そこで実務経験を積み、妖怪課の仲間や地域住民、妖怪たちの信頼を得ていったが、半年の派遣期間終了後には朧月市を離れることになる。
朧月市の市境には妖怪の情報を外部に流出させないため、町を離れると記憶を失う結界が張られている。
宵原も朧月市の記憶を失い、別の地方自治体で雑務に当たっていたが、ある日、北海道の綾志別町に赴任して欲しいとの依頼がきて、できるだけ多くの経験を積みたいと考えていた宵原は快諾する。
ところが綾志別町もまた、妖怪と人が共存する町だった。
日本中の妖怪を集めた朧月市とは異なり、綾志別町には旧ソ連にいた妖怪が集められ隔離されていた。
綾志別町の妖怪課に配属された宵原は、妖怪課職員の霧谷翔一郎の家に居候する。そこには霧谷の従妹である雪本佐那も同居しており、霧谷を慕う女子高生の風見伊里菜も頻繁に訪れていた。
再び妖怪と触れ合う日々の中で、宵原は少しずつ朧月市での記憶を取り戻していいく。
その頃、綾志別町では妖怪絡みのいくつかの事件が起きていた。
とある老婆の元に、死人を伴って現れるという妖怪「屍人傘」に連れられ、数年前に死んだ夫が姿を現した。たとえ幽霊であっても、夫に会えた老婆は喜び、彼が生前集めていたキノコ・コレクションの部屋を開放した。
同じ時期、老人ホームで建設会社の元社長の殺人未遂事件が起こる。
彼は毒キノコの成分を飲まされていたが、そのキノコは北海道に自生するものではなく、件のキノコ・コレクションから抜き取られたものだと判明する。
さらにその頃、小学生の少年が、自宅内の倉庫で疾走する事件が起きていた。
少年はいたずらのお仕置きで祖父に倉庫に閉じ込められた。夕食の時間に祖父が迎えに行くと、倉庫の扉には内側からカンヌキが掛けられ開くことができなかった。無理やりこじ開けると中に少年の姿はなかった。
宵原たちは重なり合う事件の謎を解いていく。
感想
建物の間取りを変える妖怪や、石やコンクリートの形を自在に変える妖怪がいる世界で「密室トリック」は成り立たない。オカルト+ミステリは難しい。
本シリーズもミステリから妖怪ファンタジーに軸足を移しているようだ。
青柳さんの描く妖怪は、どこか抜けた親しみやすさの裏に、人知を超え冷徹な恐ろしさも感じさせる。前作までの雰囲気が好きな人であれば、本作も楽しめるだろう。
オカルトとミステリを両立させることの難しさを考えると、綾辻行人さんの『Another』は驚異的だったのだと改めて思う。
あれくらい「オカルトなりの内部ルール」を厳密に定めれば論理パズルとしても十分楽しめるし、ホラーとミステリの相乗効果も出てくるが、これを程よいバランスで仕上げるのは難しそうだ。