僕は僕の書いた小説を知らない
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あらすじ
2年前の事故で「前向性健忘」となった小説家の岸本アキラ。
事故の後の記憶は眠ると消えてしまう。
ハードボイルドな作風の前作売れていたが、事故後2年のブランクから、早急に作品を仕上げないと、作家生命が危ぶまれる状況だった。
パソコンに前日までの状況を残して「引継ぎ」、小説も少しずつ書き上げていた。
事故当時、高校生だった妹の日向は大学生になり、記憶障害のある自分の日常生活を助けてくれていた。
友人の修は、大学卒業後理論物理学の研究者として活躍を始めていた。
自分を支えてくれる人たちに感謝しながらも、先を進む彼らをみて、一人だけ取り残される感覚に苦しむ。
記憶を積み上げられない自分が「無」になる恐れもあって、日々小説を積み上げていくことを自分に課していた。
アキラは執筆のために通っていたカフェに可愛い店員を見つけ、「引継ぎ」ファイルには、カフェにいた可愛い娘「カフェ子」と書いて記録を残していた。
その後、旧知のマスターがいるバー「ボーディーズ」で「カフェ子」と再会。
彼女の名前が「翼」であると知る。
次にカフェで翼と会った時、何をしているのかと尋ねられる。
小説を書いていることは気恥ずかしかったが「どうせ記憶は残らないのだから」と、作家であることを明かした。
担当編集から「女性の描写が薄い」と指摘されたアキラは、翼をデートに誘う。「引継ぎ」ファイルを使い「前向性健忘」であることを明かさずに、ゆっくりと関係を深めていった。
アキラは苦心の末、作品を完成させた。
だが、そのプロットは有名作家にパクられ先に出版されてしまい、アキラの作品の出版は絶望的となる。
予定していた出版の枠に入るには、残り2ヶ月で完全新作を仕上げる必要があり、アキラは絶望し酒に溺れ逃げ出してしまった。
そんなアキラの元に翼が会いにくる。
状況を聞きいた彼女は、それでも「アキラが自分の小説を読んであげなければかわいそうだ」という。
自分の小説を読んだアキラは、その話から再起する力を受け取った。
感想
担当編集の「あなたはきっと2回読む」とか「衝撃のラスト4ページ」といったセリフで「叙述トリック」を匂わせている。
そういうつもりで穿った読み方をしてしまったが、「驚かし」を超えた「温かさ」が伝わり感動してしまった。
主人公アキラの「泥臭くても諦めずに闘うカッコよさ」と、ヒロイン翼の「純真で器の大きな愛情」が、素晴らしい作品でした。
「あなたはきっと2回読む」