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もういちど生まれる

もういちど生まれる

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あらすじ

20歳の青春群像劇。
前5話の連作短編形式で視点を変えながら物語が紡がれる。

  • ひーちゃんは線香花火

R大学2年生の 汐梨 視点の物語。

汐梨は、大学の友人 ひーちゃん、風人と3人麻雀をしていた。
疲れて転寝をしていると、誰かにキスされる。
3人の友情を壊したくない汐梨は気付かないふりをした。

汐梨は同じ大学の尾崎と付き合っていた。
尾崎に「同じクラスの男の子にキスされた」と報告するが、彼は「そんなにたいしたことじゃない」と受け流す。

尾崎がクラス合宿で不在となる日、汐梨は風人を自宅に誘う。
風人は彼女に何かを伝えようと決意していた。

だが当日、ひーちゃんが交通事故にあい病院に運び込まれる。
風人と一緒に病院にいった汐梨は、ひーちゃんが隠していた思いを知る。

  • 燃えるスカートのあの子

R大学2年生、佐久間翔太視点の話。

翔太は同じクラスの 柏木椿に憧れていた。
バイト仲間でハルが椿の高校時代の友人だったと知って積極的に絡み始めた。

翔太の友人 礼生(れお)は、大学内で映画作成をしていた。
虹色メガネに鳥の巣のようなパーマの礼生は、映画「レオン」に心酔し、そのような映画を撮りたいと考えていた。

翔太は、尾崎、結実子、椿 たちクラスのメンバーと合宿に行くことになる。
憧れの椿が彼氏と別れたことを知り、合宿で距離を縮めようとするが、ハルは「あんた、椿と合ってないよ」と言われる。

  • 僕は魔法が使えない

美大生の新の視点。

新は恋人とも別れ、母が再婚しようとしている相手とも上手くいかず、鬱々としていた。
尊敬しているナツ先輩に「そのときに、一番向き合いたいと思ったものを描くんだ」といわれ、描く対象を探していた。

街で見かけた結実子に声をかけ、モデルになってもらう。
結実子は何度か新の家を訪れたが、ある日「私、もう来なくてもいいよね」と突然モデルを辞退した。

美大内に展示されていたナツ先輩の画が何者かに破られた。

  • もういちど生まれる

浪人生の柏木梢の視点。

梢は椿の双子の妹だった。
自分よりすべてのパーツが少しずつ整っていて、小さいころからファッションやメイクに関心を持っていた椿は、高校時代には読者モデルとなり周囲の注目を集めていた。

椿は大学に入り、そこでも華やかな生活を送っている。
一方梢は、大学受験に失敗し二年目の浪人生活をしていた。予備校講師の堀田に憧れていたが、彼は既婚者で今度子供が生まれるのだという。

梢は、椿が大学の映画サークルの人に片思いをしていることを知る。
椿の携帯に届いたメールを盗み見て、梢は椿ふりをして撮影現場にいくことを思いついた。

  • 破りたかったものすべて

ダンススクールに通う遥(ハル)の視点。

遥は高校時代からダンスに打ち込んでいた。
ダンスバトルで優秀な成績をおさめ「すごい」と称賛される。
高校卒業後には、ダンスで生活するためダンススクールに通い始めたが、自分の限界を感じつつあった。

兄のナツは高校時代から絵の才能を評価されていた。
美大に進み絵の勉強をしていたが、遥の目からは過去にすがって停滞しているようにしか見えなかった。

遥が深夜の街でダンスの練習をしていると、ダンススクールでセンターを取っている有佐も同じ場所で練習していることに気づく。

才能に溢れる有佐が特別であるために払っている努力を見た遥は、兄の画を見に行った。

関係図

わりと登場人物の関係が複雑なので、関係図を書いてみた。
(クリックで拡大)

感想

20歳の青春物語だ。

最初に2話は「大学生の恋愛物語」という感じで、正直読みにくい。だが話が進み、各話の関係が見えてくる3話目くらいから急に面白くなる。それぞれの視点からの描写が、関係を立体的に浮かび上がらせてくるのだ。
ラブストーリーが苦手な人も、がんばって3話目くらまで読んだ方がいい。

印象に残ったは最終話のハルの言葉。

あのころ私たちは、他の人と違うことを「すごい」と思っていた。絵が上手いこと、かっこよく踊れること。イヤになるような日常の繰り返しの中で、非日常を見せてくれる人間のことを「すごい」と思っていた。勉強ができたり料理が上手かったり、同じことの繰り返しの日々の中に楽しさを見出せたり、日常に根ざしている才能を「すごい」と感じられるのは、もっともっとあとのことなんだ。

その通りで、普通の日々を普通に過ごしていく才能は幸せに生きるために不可欠のもので、一番大切なものなのだと思う。

でもそれでも「すごい」「特別」であろうとする人もいる。
歯を食いしばって努力し、時に普通の幸せを犠牲にしても、前に進もうとする。
そういう人が、芸術を生み世界を変えていくのだろう。

著者は「普通の人が普通に生きること」を卑下しない。その尊さを十分理解している。一方で「特別」であろうとする人たちへの冷笑は厳しく断ずる。

そういう人たちが重なって社会は動くのだ。
お互いがお互いを尊重するのが、最も大事なベースなのだと思う。

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