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コーヒーが冷めないうちに

コーヒーが冷めないうちに

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あらすじ

「一杯のコーヒーが冷めない間だけ」過去に戻ることができる喫茶店で起こった話。

地下にある古びた喫茶店「フニクリフニクラ」。時田流と計の夫婦、流の従姉妹 数 が働ている。「フニクリフニクラ」のある座席に座ると過去に戻ることができるという。

過去に戻るにはいくつかのルールがある。

1.過去に戻ってもこの喫茶店に来たことがない人には会えない
2.何をしても現実は変わらない
3.過去に戻れる席にいる先客が席を立った時だけがチャンス
4.過去に戻っても席から離れることはできない
5.過去に戻れるのはコーヒーが冷めてしまうまで

現実を変えられない制限を知りながらも「大切な人のため」過去に戻った人たちの4つの物語。

  • 第1話「恋人」結婚を考えていた彼氏を別れた女の話

『恋人』結婚を考えていた彼氏と別れた女の話
美人キャリアウーマンの清川二美子の話。

不美子は彼氏と別れた。彼氏は夢だったゲーム会社への就職のため渡米することを決め、プライドの高い二美子は「離れたくない」と伝えることができなかったからだ。

もう一度やり直したいと思った二美子は「フニクリフニクラ」を訪れた。
「過去に戻っても、過去を変えることはできない」という制約を知りながら、それでも二美子は過去に戻った。

  • 第2話「夫婦」記憶が消えていく男と看護師の話

「フニクリフニクラ」の常連房木の話。

房木は毎日のようにカンター席に座り旅行雑誌を眺めている。
アルツハイマーの症状が進行していた房木は、妻であり看護師である高竹も認識できなくない。高竹は、たとえ妻として忘れられても、看護師として夫に寄り添い支えていこうと決めていた。

かつて夫が渡しそびれた手紙があることを知った高村は、その手紙を受け取るため過去に戻った。

  • 第3話「姉妹」家出した姉とよく食べる妹の話

「フニクリフニクラ」の近所でスナックを経営する平井八絵子の話。

八絵子は両親から実家の旅館の経営を継ぐこと期待されていたが、束縛を嫌った。旅館の経営は妹の久美に任せ家を出て自分の店を持ち充実した生活を送っていた。
その後も、久美は根気強く八絵子に戻ってくるよう説得に来たが、八絵子は彼女を疎ましく思い避け続けていた。
「久美にも夢があったかもしれない」と思う自責の念が、妹との距離を作る。

だが久美は八絵子あての手紙を残し事故死してしまう。八絵子は彼女の思いを聞くために、過去に戻ることを決意した。

  • 第4話「親子」この喫茶店で働く妊婦の話

「フニクリフニクラ」マスター 時田流の妻である 時田計 は生まれつき心臓が弱かった。

妊娠が判明し検査をすると、医者から「計さんの体は出産に耐えられない」と宣告される。妊娠5週目には計の体調は目に見えて悪化し中絶を勧められた。

計はそれでも産むことを望む。
「私は、あなたを産んであげる事しかできないけれど、許してくれる?」と、お腹の子に聞いた。

計は、見ることができないかもしれない子供に会うため「未来」に飛ぶことを決めた。

感想

ほぼ喫茶店の内部だけという閉じられた一幕劇のような空気感がいい。作品世界にどっぷりと浸ることができた。

「過去に戻れる。でも、過去を変えることはできない」という制限が課せられている。それでも「大切な人が過去に残した思い」を知ることで「未来を変える」ことはできる。

過去に戻れない私たちでも「過去の解釈を変える」ことで「未来を変える」ことはできるのだ。




出版された当時は、派手な宣伝が目について敬遠していたけれど、読んでみるといい話だった。読まず嫌いは損だ。

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