准教授・高槻彰良の推察5 生者は語り死者は踊る
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あらすじ
『准教授 高槻彰良の推察』シリーズ第5弾。
民俗学の教授として「怪異」を研究する高槻彰良と、「嘘を見抜く耳」を持った学生深町尚哉が、数多の謎に挑む。
- 百物語の夜
夏休み期間中、高槻は学生が提案した「百物語」の企画に乗る。
夜の校舎に25人が集まり、一人4話ずつ合計100話を語る。
一つの話が終わるごとに、蝋燭の代わりにLEDキャンドルライトを消していき、最後の1つが消えた時「何か」が起こることを期待する「百物語」イベントだ。
嘘が歪んで聞こえる耳を持つ深町には、本当に経験した話と作った部分を聞き分けることができた。嘘を不快に感じる深町だったが、フィクションとしての虚構は受け入れられるようになっていた。
ある学生が、死んでしまった妹との話をした。
彼が妹を置いて遊びに出かけてしまった日、一人でボール遊びをしていた妹は、ボールを追いかけ車道に飛び出し車にはねられ死んでしまった。
彼は妹の死に責任を感じていた。
だがある日、彼のベッドの枕元に一輪の花が置かれていた。
彼と妹の間に「ケンカをして仲直りをしたいときには、相手の枕元に花を置く」という密かな約束があった。このことは他の誰も知らない。
彼は「いつまでも落ち込んでいる自分を元気づけるため、妹が花を持ってきてくれたんだ」と解釈していた。
彼の声に歪みはなく、嘘は混じっていなかった。
100の物語が終わり最後のランプを消したとき、窓の外から声が聞こえた。
主催者が録音していたレコーダーで確かめると「おにいちゃん」とよぶ、かすかな声が聞こえた。
- 死者の祭り
深町は10歳の頃、祖母の家に訪れた時にみた「死者が集う盆踊り」を目撃し、そこから生還する代償として「嘘を聞き分ける耳」を得て「孤独になる」運命を背負った。
今回、その謎を解くため、高槻たちと一緒に、もう一度同じ時期に同じ場所を訪れることにした。
今ではその村に老人しか残っておらず、盆踊りは行われていないのだという。深町が祖母の名前を出すと村の人間は暖かく歓待してくれた。
だが、高槻が村の「山神様」について質問すると、途端に態度を硬化させる。そして深津気が「嘘を聞き分けられる」ことに気づくと、露骨に追い出しにかかった。
その村では盆踊りはなくなっていたが、深夜になると太鼓の音が聞こえだした。深町は再び「死者の盆踊り」に足を踏み入れた。
感想
本シリーズは、基本的には「怪異に見えるもの」の本当の姿を論理的に解き明かしていくスタイルのミステリだ。
だが、そこにいくつかの「本物の怪異っぽい話」が混ざるのが面白い。
主人公である高槻自身が「天狗にさらわれた話」、もう一人の主人公深町が「死者の盆踊り」に紛れ込んだ話、もう一つが沙絵の「人魚」の話。
今回はその中で「深町の死者の盆踊り」に踏み込んでいく。
今度こそ死者の世界に連れていかれそうになった深町は「あがくだけ無駄、どうせ戻っても孤独になるだけ」と諦めそうになるが、高槻たちとの思い出が、深町に踏ん張る力を与えた。
高槻は
好きなものをたくさん増やしなさい。
好きなもの、楽しいこと、大事だって思える何か、僕らはそういうものをたくさん持っておくべきなんだ。そういうものが、僕らをこの世界につなぎ止めていてくれる。
のだという。
深町を「孤独になる呪い」から解き放ったのは「霊能力者」などではなく、ごく普通に一緒に日常を楽しむことができる仲間たちだったということだ。
まだ高槻や沙絵の謎が残るけれど、とりあえず一段落着いた感じ。