黒の貴婦人
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あらすじ
タック&タカチシリーズの短篇集。
大学在学時から卒業から数年経った時の話まで、長編の間を埋める6つの短編。
- 招かれざる死者
タカチ(高瀬千帆)とウサコ(羽迫由起子)は、下級生である有馬真一の部屋での飲み会に参加していた。
知り合いのツテで頼まれたため嫌々参加していたタカチたちは、顔を出してすぐに帰ろうと考えていた。
だが、ドアチャイムがなって有馬が玄関に行くと、見知らぬ女性が刃物に刺されて倒れていた。
有馬は、常日頃から彼の騒がしさに文句をつけていた隣室の男が、腹を立てて刃物を持ち出したのだという。だが、話を聞いたタック(匠千暁)とボアン(辺見祐輔)は違う推理に至った。
- 黒の貴婦人
ボアンたちは、一日3食限定で供される鯖寿司を目当てに、「さんぺい」と姉妹店の「花茶屋」の常連となっていた。
彼らは頻繁にどちらかの店に通う。鯖寿司は予約を受け付けず各店で3食限定であるため、開店直後に顔を出すようにしていた。
ボアンは「さんぺい」と「花茶屋」のどちらに行っても、必ず白い服を着て白い帽子をかぶった女性がいることに気づき、彼女を「白の貴婦人」と名付けた。
ボアンたちは必ず飲みに行くわけでもないし、どちらの店に行くかはランダムだ。それでも「白の貴婦人」は、必ず開店後の早い時間に、ボアンたちがいる店にきて、限定の鯖寿司を食べていた。
「白の貴婦人」が必ず同じ店にいることを不思議に思ったボアンは、彼らの中に彼女に情報を漏らしている「内通者」がいるのだと推理した。
そんなボアンの話とは関係なく、タカチのタックへの思いが語られる。
- スプリット・イメージ または避暑地の出来心
野呂ゆかり、鯨伏美嘉、鳩里観月、蓮実ケイの女子大生4人組は、田舎の洋館まで小旅行に来ていた。
もともと、友人の伊井谷秀子が所有する「別宅」でのバカンスを計画していたが、秀子本人は参加できなくなった。
料理の得意な同行者を探していた彼女たちは、ウサコに紹介されたタックを連れて行くことになる。
もともと絵画スクールを開くつもりで建てられたその別宅は、2階にだだっ広いスペースがあった。
女子4人は、1階の個室に泊まる予定だったが、ゆかりが2階の広い部屋に泊まりたいと言い出し、結局4人が2階で遅くまで飲むことになった。
翌朝、近くの雑木林で男が死んでいるのが見つかった。
その男は、別宅の持ち主である秀子のストーカーだったことが判明する。
男の共犯者が仲間割れして殺したものだと考えられた。
だが、ゆかりはタックと話すことをのぞみ、タックは異なる推理を披露した。
- ジャケットの地図
大手流通チェーン会長の笠原は、別宅に囲っていた秘書に「ジャケットの裏に宝の地図を縫い付けてある」と言い残して死んでいった。
彼女は笠原にマンションをあてがわれ暮らしていたが、実際には体の関係はなかった。笠原はそこで玩具を集め、子供の頃の満たされなかった思いを果たそうとしていた。彼女は笠原に対し「母親」として接していった。
笠原の死後、彼女は残されたジャケットの裏地を切り裂いてみたが、そこには何もなかった。
取り違えられた可能性に思い至り、クリーニング店に似たジャケットを預けた男に接近し、すり替えを図る。
だがその男は、笠原から「あること」を依頼されていた。
- 夜空の向こう側
留年と休学を繰り返し、ようやく就職したボアンはウサコと飲んでいた。
タカチは東京で就職し、安槻に残ったタックとは遠距離恋愛を続けている。
その日は、タックが東京のタカチを訪ね不在だったため、ボアンとウサコという珍しい組み合わせになっていた。
ボアンが働き始めた学校の教師は、ウサコの友人と結婚したのだという。そこで起こった不思議な事件の話になった。
その結婚式では、教師が顧問をしていた吹奏楽部の女子部員たちが受付をしていた。訪れた5人の吹奏楽部員が「新郎の親族に頼まれた」といってご祝儀を持っていった。一部の祝儀袋は水引が外され、数万円ずつ抜かれていた。
合計67万円が盗まれたことが明白で、犯人もわかっているため、新婦は学校に苦情を申し入れたが、教師である夫は問題を大きくしないようことを収めた。
ボアンとウサコは、5人の女子高生の行動に隠されたメッセージを読み解いた。
感想
ずいぶん丸くなったな、と感じた。
『スコッチ・ゲーム』や『仔羊たちの聖夜』では、支配しコントロールしようとする「善意の大人への怒り」が溢れていた。
本作では、大学を卒業し大人になった4人が「相手をコントロールしたくなる側の立場」を理解し、その上で「相手を尊重する」という判断をする。
ただひたすら反抗していた立場から、一歩進んだ感じだ。
いつも飲んではしゃいでいた4人が、成熟して行く様は、嬉しくもあるが「青春の終わり」を感じさせる寂しさもある。
ミステリとしても面白かった。
このシリーズでは、シチュエーションだけを与えられて、実際の捜査はなく「安楽椅子探偵」的に、純粋に論理的な推理を重ねていく話が多い。
『麦酒の家の冒険』では「ビールの詰まった冷蔵庫だけがある家」の謎をひたすら解いて行く話だが、いかんせん長過ぎてダレる感じがあった。
こういうミステリは短編でやった方がキレがあっていい。