腕貫探偵
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西澤保彦さんは、純粋に論理だけを積み上げて結論に導く「安楽椅子探偵」系の話を得意としている。
タック&タカチのシリーズは、ほとんどがその系統。『麦酒の家の冒険』とか『スコッチ・ゲーム』なんかが特にその傾向が強い。とはいえ、多少は実地捜査が行われたり、背景を知る事件当事者が推理に加わっていたりして、純粋な「安楽椅子探偵」じゃなかったりする。
一方、本作の「腕貫探偵」は完全な「安楽椅子探偵」だ。
パイプ椅子から一歩も動かず、相談者から口頭で聞いた話だけで、事件の真相を探り当てる。
提示された材料から真相を探っていく話では、材料はどうにでも解釈できるから「後からどうにでも辻褄を合わせることができるじゃん」という見方もある。
だが、西澤さんの作品では、提示された伏線が矛盾なく拾われ、他の解釈が成り立たない理由づけも行われているから、納得感がある。逆からみると「一つの真相を、複雑な伏線にバラして配置するのが圧倒的に上手い」ということだ。
やっぱり面白い。
また、西澤さんの作品ではキャラクタの魅力も大きい。本作で登場した腕貫探偵も興味深い。
無愛想で余計なことは言わない。
特に最初の一話「腕貫探偵登場」では、ほぼ一言だけ事件の核心に触れる指摘をしただけで解決に導いていく。
「お役所仕事」をデフォルメしたような滑稽さと、神出鬼没でミステリアスな雰囲気のアンバランスさも面白い。
続編が気になる〜
あらすじ
- 腕貫探偵登場
大学生の蘇甲純也は、飲み会の帰り道、自宅アパートから遠く離れた場所で、同じアパートに住む知り合いの死体を発見した。
だが蘇甲が公衆電話を探し警察に通報したわずかな時間に死体は消えてしまう。
彼が自分のアパートに戻ると、その知り合いの死体は、その知り合い自身の部屋に放置されていた。
蘇甲は大学構内に突如現れた「市民サーヴィス課臨時出張所」で、腕貫を着けた無愛想な男に、事件について質問する。
- 恋よりほかに死するものなし
大学生の筑摩地葉子は、ずっと恋していた人との再婚を目前に控え幸せなはずの母が、原因不明の体調不良に陥っていることに悩んでいた。
筑摩地は病院構内に突如現れた「市民サーヴィス課臨時出張所」で、腕貫を着けた無愛想な男に、母親について相談する。
- 化かし合い、愛し合い
門叶雄馬は、自身の浮気のせいで離れてしまった女性とヨリを戻せることに喜んでいた。
門叶はアーケード街に突如現れた「市民サーヴィス課臨時出張所」で、腕貫を着けた無愛想な男に、その喜びを伝える。
だがその腕貫男は「もうこれ以上、彼女と関わり合うべきではない」といった。
- 喪失の扉
大学事務員だった武笠寿憲は、家で20年前の学生証の束を見つけた。
当時大学事務員だった今の妻とは再婚する直前で、娘が大学にいた頃だったが、どうして手元にそんなものがあるのかわからなかった。
武笠は雑居ビルの合間に突如現れた「市民サーヴィス課臨時出張所」で、腕貫を着けた無愛想な男に、その疑問を問いかける。
- すべてひとりで死ぬ女
氷見と水谷川の二人の刑事は、トイレで女性が死んでいるという通報を受け現場に向かう。被害者は二人が昼食時に目撃していた女性だった。
昼食時、彼女はメニューを見て何も頼まずに店を出て行ってしまった。やや高めの価格設定の洋食屋だったため、持ち合わせが足りずに店を出たものだと考えていたが、彼女はカバンに十分なお金を入れていた。
警察署に戻った二人は突如現れた「市民サーヴィス課臨時出張所」で、腕貫を着けた無愛想な男に、事件の疑問を投げかける。
- スクランブル・カンパニィ
体調不良をおして働いていた檀田臨夢は、同僚の誘いでコンパの代替要員に連れ出される。
檀田は体調不良で倒れてしまうが、コンパに参加した社内で有名な美女に介抱され翌朝を迎えた。
会社に着くと、もともとコンパに出席するはずだった男が、コンパに誘った仲間の家に盗難に入って見つかり、逃げ出したところを逮捕のだという。
檀田は会社の受付に突如現れた「市民サーヴィス課臨時出張所」で、腕貫を着けた無愛想な男に、何が起こったのか尋ねてみる。
- 明日を除く窓
大学生の蘇甲純也は友人の代打で、とある個展の撤収作業手伝いのバイトに赴く。そこには彼が憧れていた、同じ大学の筑摩地葉子もバイトとして来ていた。
撤収作業の最中、蘇甲は収納庫の奥に、今年は出展していないはずの作品のラベルが貼られた空き箱を見つける。
撤収作業を取り仕切っていた先輩の誘いで、蘇甲と筑摩地は打ち上げに参加した。
そこで3人は、空き箱の謎について語る。
先輩が帰り二人になった蘇甲と筑摩地は、ホテルのティーラウンジへ向かう途中、突如現れた「市民サーヴィス課臨時出張所」で、腕貫を着けた無愛想な男に、空き箱の謎について問いかけてみた。