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元彼の遺言状

与えることは奪うこと『元彼の遺言状』

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与えることは奪うこと

「殺人犯と認められることで莫大な遺産を相続できる」というトリッキーな設定が目を引く作品。でも個人的には主人公である女性弁護士 剣持麗子の造形に一番惹かれた。

のっけから「こんな安物の婚約指輪、舐めとんのかっ!?」というツッコミから入る麗子。繊細なハートを持つ男子である私には「こわーいお姉様」にしか見えない。

その後も、ボーナスの減額にブチ切れて弁護士事務所を辞めてしまったりと、お金への執着が強い。

ただ、麗子の生活は思ったより地味だったりする。高級な服を着ていたりするけど、お金を「もらうこと」へのこだわりと比べると、お金を「使うこと」への執着はそれほどではない。

彼女にとってお金は「消費のための道具」である以上に「自分に対する評価」の意味合いが強いのだ。

ストーリー中に、マルセル・モースの「贈与論」を何度も登場する。
「与えることが武器になる」というメインプロットを補強するだけでなく、贈与が「経済的な意味合いに先立って、社会的・道徳的な意味を持つ」という点で、麗子の葛藤を説明しているのだと思う。

麗子は「お金よりも大切なものなんてわからない」と葛藤する。
そして「自分にとってお金より欲しいものってなんだろう?」と考える。

でも出口はそこにはない。

彼女は「お金よりも欲しいもの」を探すのではなく「自分が社会に受け入れられていることの、お金よりも確かな証」を探すべきなのだ。


弱さをみせ葛藤を続けるうちに、冒頭の麗子の「業突く張り」な印象は少し和らいだ。でもやっぱり、まだ怖いけど。。

あらすじ


贈られた婚約指輪の値段が気に食わず恋人を振り、ボーナス減額に納得いかず所属していた弁護士事務所を辞めてしまう、とにかくお金への執着が強い女性弁護士の剣持麗子。

暇になった麗子は大学時代の元彼の森川栄治にメールを送り、数日後に関係者から「栄治は亡くなった」という返信を受け取る。

そこで麗子は栄治の死を知り、彼が残した奇妙な遺言状について知った。

栄治の遺言状には「僕の財産を僕を殺した犯人に譲る」と記されていた。「3ヶ月以内に犯人が特定できない場合、あるいは僕が殺人以外の理由で死んだと判断された場合には、全財産を国庫に帰属させる」という条件も付けられていた。

業界大手の森川製薬の御曹司だった栄治の遺産は莫大な額に上った。そして犯人の特定は、栄治の親類でもある森川製薬幹部3人の判断に委ねられる。

遺言は栄治の親類によって動画配信され世に広まった。彼の死は「インフルエンザの悪化による病死」だと診断されていたが、それでも「私が彼を殺した」のだという人が次々と森川製薬を訪れた。

栄治の友人だった篠田は「インフルエンザの治りかけで栄治に会った。自分が彼にインフルエンザをうつして殺したのだ」といい、麗子に代理人として遺産取得の交渉を依頼した。

当初麗子は「割りに合わない仕事だ」と依頼を断る。
だが、栄治には森川製薬の持ち株分として莫大な財産があったことを知り、同時に遺言状に込められた真意に気づいて、結局は篠田の依頼を受けた。

「完璧な殺人計画を立てよう。あなたを犯人にしてあげる」と。

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