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四畳半タイムマシンブルース

四畳半タイムマシンブルース

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「生涯は一冊の本のようなもの。すでに決まっていても1ページずつ読み進めるしかない」

だからこそ

「未来は自分で掴み取るしかないもの」なのだ。

森見登美彦さんの『四畳半神話大系』と、上田誠さんの『サマータイムマシンブルース』のコラボ作品です。

大学生たちの爽やか青春物語的な舞台設定でも、ハチャメチャで少し不気味な森見ワールドに引き込んでしまうクセの強さはさすがでした。


以下、若干のネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

さて、この作品はタイトルから分かるとおり、タイムトラベルを主題としたSFです。

最近のタイムトラベル系SFでは、タイムパラドックスを回避するのに「それぞれ違う平行宇宙を行き来している」というマルチバース解釈を採用するものが多い気がします。

例えばドラゴンボールのトランクスは「過去に戻って人造人間を倒しても、今自分がいる世界が変わるわけではない」と認識していました。それでも「この悲惨な現実以外の世界もあり得る」ことを証明するために過去に戻ったのです。

西尾維新さんの『傾物語』とかもマルチバースをベースにした傑作だったと思います。

「因果関係を変えるて、他にあり得た可能性を現実にすることはあっても、もともと自分がいた世界には影響しない」というパラドックス回避法ですね。



一方でこの作品でのタイムトラベルは「過去に戻って何をしようが、それらのことはすべて現在に組み込まれている」という一本道の設定です。

「生涯は一冊の本のようなもの」とある通り、「すべては最後まで決まっている」という決定論的な認識がベースになっています。

すべては決まっている書き上げられた物語でも、一冊の本のように1ページずつめくって読んでいくしかない。だから人生は楽しいんだ、ということです。

「今、自分が決めたこと」は、主観的には自分の自由意志によるものに見えます。そして人は主観の中にしか生きることはできません。

1ページずつしか読めない私たちは、その中で「自分ができる最高のことをした」という思いを積み上げることで、生涯という本を最高に楽しむことができる。

すべてが決まっている世界であっても、いや、むしろだからこそ「未来は自分で掴み取るしかない」ということなのだと思いました。

あらすじ

京都の大学生である「私」は、オンボロアパート下鴨幽水荘の209号室に住んでいた。

その部屋には下鴨幽水荘で唯一のエアコンがあったが、「人の不幸を楽しむ小津」がリモコンにコーラをこぼし使えなくなってしまった。

私は、密かに想いを寄せる後輩「ポンコツ映画を量産する明石さん」に修理をお願いしたが「古すぎて部品がない」とのこと。

困惑する彼らの元に「もっさりした田村青年」がタイムマシンに乗って現れた。過去に戻ってリモコンを守ろうと考えたが「未来を改変することのリスク」に気づき右往左往する。

彼らはエアコンと世界を守ることができるのか。

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