TAS 特別師弟捜査員
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中山七里さんはホント多才ですね。
警察やジャーナリストくらいまではミステリの探偵やくとしてよくありますが、法曹関係、ピアニスト、ケースワーカー、作家、解剖医、果ては総理大臣まで、多彩な職業の「探偵役」を生み出しています。
いわゆる「お仕事ミステリ」として探偵×職業の組み合わせは大量に世に出ていますが、中山七里さんの描く職業はやけに緻密でリアリティがあります。「実は本職?」と思うくらい。
もちろんそれぞれの職業について細かく調べているのだとは思いますが、ディテールを充実させるだけでこれほどの真実味は出せません。人間に通底する「本質」を掴んでいるから、登場人物たちが「生々しく本物っぽい」のでしょうか。
どんな仕事についていても「力には流されてしまうこと」とか「自己顕示欲」とか「その人なりの矜持」から離れることはできないから、知らない職業の話でも共感することができるのかもしれません。
本作は学生と教師という少し毛色の違う「職業」ですが、またしても期待を超える水準で没頭してしまいました。
「学生」はほとんどの人が経験しているけれど、離れて数十年経つ著者にとっては「異業種」のようなものなのだとは思います。実際、成熟しすぎた高校生たちはリアリティに欠けるところもありすぎるけれど、学生時代のノスタルジアを呼び起こす話でした。
「教師」の方は、定額働かせ放題のブラック環境の中で「保身」と「プライド」の間を動く人間っぽさが、さすが中山七里さんと思わせる描写の巧みさです。
ミステリとしては、きちんとヒントがあるフェアな展開です。
ただ学校生活の描写がメインで、謎解きはラスト直前まで進みません。最後にきて全ての伏線が回収される感じでした。「見えている景色が一気に変わる」急展開が、こちらも中山七里さんらしいと言えますね。
楽しい読書でした。
あらすじ
高校2年の高梨慎也は、同級生の美少女 雨宮楓に「放課後話をしたい」と声をかけられた。
非リアの慎也はその後の展開を期待していたが、楓は昼休みに飛び降りて死んでしまう。
学校は楓の死を「事故」だと結論づけようとした。だが「楓が麻薬を使っていた」という噂も流れ、警察は単純な事故とは考えなかった。
慎也の従兄弟で捜査一課の刑事である葛城公彦が捜査に当たる。公彦は慎也に学生同士の話を聞いてくるよう依頼した。
慎也は楓の話を聞くため、彼女が所属していた演劇部に入部する。
当初はクラスの友人である拓海、幼馴染の瑞希にも入部の真意を疑われたが、主役の楓を失い困惑していた脚本担当の加々美汐音を助けオリジナルの脚本を提供し、徐々に演劇部内での立場を固めていった。
慎也は演劇部でのクラスとは違う楓の姿を知る。
中でも楓に心酔していた後輩の一峰大輝は「楓の周りにサリエリがいた」と慎也に告げる。だがその直後、大輝も準備中の舞台から転落して死んでしまった。
二人の死は偶然の事故なのか、慎也は調査を進める。
そして同時に、本気で演劇の楽しさに囚われていった。