BookLetでは、ビジネス書や小説の1000文字程度のオリジナルレビューを掲載しています。

世界2.0 メタバースの歩き方と創り方

世界2.0 メタバースの歩き方と創り方

こちらで購入可能

「メタバースは神の民主化」なのか。

「誰もが世界の創造主になれる」という仮想世界の可能性に「メタバースはインターネット以来の革命だ!メタバースが世界を変えるのだー!」と著者の鼻息は荒いです。


正直なところバズワード的な使われ方には気持ち悪さを感じます。
「日本はアニメ・ゲーム等のコンテンツで優位、でも今が最後のチャンス」というテンプレ通りの「上げて脅す」煽り方もなんだか嫌らしい。。

それでもメタバースには、そんな胡散臭さを吹き飛ばすくらいの可能性があると感じさせます。

以前だって「誰もが世界を創る」ことはできたと思うけど、昨今の技術はその規模を革命的に変えました。


穂書では十数年前に登場したVR「セカンドライフ」との対比が挙げられています。メタバースと聞いて「それってセカンドライフと違うの?」という受け止め方をする人も多いでしょう。

まず著者は「仮想世界を作り出すハードウェアやネットワークのインフラが当時とは全く違う」のだといいます。確かにハード面で大幅な進歩な進歩があったことは間違いないでしょう。

入力系や視覚・聴覚以外の感覚フィードバックなど、まだまだ進歩の余地は大きいと思いますが、当時はできなかったことの多くが実現できているのは確かです。

とくにここ数年は、ビジネスでもリアルな出張や会議は減り、ほとんどのことはオンラインで完結できるようになりました。必要に迫られてのことではあるのですが、ここまで実現できたのは、技術進歩の下支えがあったからでしょう。


そして、ハードウェアの進歩以上に大きな影響を及ぼすのが「仮想世界の中で動く生態系」です。本書のキモはその生態系の話になります。

とりあえず「生態系」の話を理解しておけば、本書の美味しいところはクリアです。

ここからは「生態系」部分に絞って概要をまとめたいと思います。

【セカンドライフと何が違う?】

昨今のメタバースは従来から大きく進歩しています。先述した通り、端末や通信インフラなどに関わる技術進歩が大きいのは間違いありません。

それに加え「仮想世界でどのような生態系を動かすか?」について、知見が蓄積されユーザ側の練度も上がってきている、というのも大きなポイントだと思います。

例えばセカンドライフでは、アクセスが集まる「土地」に高い値段をつけて取引をしていました。
「トラフィックを集中させること」が価値になるという、中央集権的な「マスメディア的発想」から抜け出せていません。

一方で、最近のSNSなどでは「トラフィックを分散させて各所でのやりとりを活性化させる」という作りになっています。インターネットの仕組みではこういった分散的なやり方が効率的です。

また、セカンドライフのやり方は「鉄道+不動産会社が、線路をひいて土地の値段を引き上げる」のと同じです。このビジネスモデルは「仮想空間上の土地は、ほぼゼロコストで無限に増やせる」という強みを活かせていません。

インターネットが生み出した最大のパラダイムシフトは「ゼロサムの競争」から「余剰価値の創造と分配」への移行なのだと思います。

【生態系の作り方】

では、仮想世界に適した「生態系」とはどのようもので、どうやって作っていけばいいのか。
本書はここに力点を置いています。

メタバース以外でもあらゆる組織に応用できる部内容で参考になりました。この部分は細かく説明したいと思います。


・生態系の特徴
生態系がうまく回るためには、以下の3つの特徴を備えている必要があります。

①自律的である
指示や命令がなくても個々の参加者が自分で考えて行動し、改善を繰り返すことができる組織です。 まるで集団そのものに意志があるかのように動きます。そのためには 参加者が生態系内のルールを理解し、自分の役割を把握していることが条件です。

②有機的である
それぞれの参加者がお互いに連携し合っている必要があります。参加者ごとの相互コミュニケーションがあり、構成員が変わっても動き続けるような組織です。

③分散的である
司令塔は置かないので、中央集権的な組織のように司令塔を失って崩壊することはありません。


・生態系でやりとりされる3つの価値
生態系を動かす原動力となる「価値」として、以下の3つを挙げています。

①実用的価値
食べ物であれば「栄養として体を作り動かす」のが実用的価値です。

②感情的価値
「雰囲気のいいレストランで気持ち良い食事をした」とか「家族と楽しくしく食卓を感こんだ」というような、感情の動きによる価値です。

③社会的価値
「ハーバー・ボッシュ法を発明し、食糧生産の効率を改善した」というような社会への価値貢献です。

人間、自分のことが一番大事です。 普通は①>②>③の優先順になります。でも①が十分満たされれば、やがて②そして③へと重点が移っていくものです。


・生態系の始め方
生態系は価値を提供する生産者と、受け取る消費者の両方がいて成り立ちます。ただこれは「タマゴ−ニワトリ問題」で、最初の段階で両方をどう揃えるかがポイントです。いくつかのパターンを挙げます。

①自分が生産
生態系の設立者が生産者となって価値を提供することから始めるパターン。簡単に始められますが、自分自身に提供できる価値があることが必須です。

②生産と消費を兼ねる
「生産者であり消費者」でもある構成員を集めます。例えばメルカリのように「売ることも買うこともある」ユーザで徐々に生態系の輪を広げていくやり方です。

③生産にメリット提供
先に生産者にメリットを提示して集める方法。例えばインスタグラムは、当初「写真加工アプリ」としてフィルタなどを無償で提供し、写真を公開するユーザを集めました。

③既存の生態系に乗る
すでにある生態系の力を借りるやり方。類似の予約サイトに乗って成長のきっかけを掴んだAirbnbのようなパターンです。


・生態系に必要な機能
生態系がうまく回っていくためには、最低限以下のような機能が必要です。

①マッチング
メンバー同士を引き合わせる機能

②検索
メンバーや提供されている価値を検索できる機能。

③信用の可視化 評価制度
メンバーの信用度を可視化し、安心してやり取りできる環境を整えます。

③違反者へのペナルティ
信用評価と裏表一体ですが、生態系のルールに違反したメンバーに相応のペナルティを与えることも必要です。

④自助努力できるためのツール
積極的に価値を創造しようとするメンバーのモチベーションを高める機能。

・生態系と生命との類似性
うまく動き始めた生態系は、以下のように「生命」と同じ散逸構造を持ちます。

①相互作用
生き物の器官が相互に影響するように、生態系の構成メンバーはお互いに影響を及ぼします。

②恒常性
細胞が生まれ変わっても一つの生き物であり続けるように、構成員の一部が入れ替わっても生態系としての一貫性を維持します。

③自己組織化
それぞれの細胞が自分の役割を果たすように、中央集権的な命令者がいなくてもメンバーが自主的に動きます。

④ホロニックフラクタル
細胞の組み合わせが器官となって全体を構成するように、小さな組織が上位の組織の一部となるような構造を取ります。

⑤成長と進化
外部環境の変化に柔軟に対応し、刺激を契機に進化していきます。


・メンバーを惹きつけ活動を促す施策
より多くのメンバーを惹きつけ、生態系を活性化させるため、ゲーミフィケーションの手法を使います。

①ランダムフィードバック
価値貢献には報酬を与えることが必要ですが、貢献に比例した予測可能な報酬はかえってやる気を削ぎます。3回に1回くらいのランダムなフィードバックが最も効果が高い。まさにソシャゲの世界です。

②届きそうな目標
今の実力より少しだけ高い目標を設定されるとモチベーションが高まります。まさにソシャゲです。

③難易度のエスカレーション
メンバーのスキルの上昇に合わせ難易度も上げていく必要があります。これもソシャゲですね。

④社会的相互作用の可視化
メンバーの貢献を見えるようにすることで活動を促します。ソシャゲでいうギルドランキングとかですかね。

⑤進歩している実感の提供
自分のレベルが上がっていることが実感できるよう、細かな目標設定とフィードバックが有効です。これもソシャゲだ。


以上が「生態系」についての話です。

メタバースという仮想世界でだけ話でなく、世の中のあらゆる組織に適用できる考えですね。

インターネットを原動力として始まった「中央集権的な組織」から「分散的、自律的な組織」という流れは、もう止めることはできないレベルになっています。

変わり始めた人間社会の「生態系」が仮想現実の力をつかって、徐々に現実世界を置き換えていく。面白い時代になってきた、この時代に間に合ってよかった、と思います

こちらで購入可能