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現代思想入門

現代思想入門

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盗んだバイクで走り出す?
盗まれた人の気持ち考えたことあんの?

デリダ、ドゥルーズ、フーコーの3人を中心にフランス「現代思想」の入口案内となる本です。

科学技術は「現実の出来事を抽象化して再現性を持たせる」ことで発展してきました。複雑なことを単純に理解するのが知性なのです。

ただ、現実の出来事や人の心は、ぐちゃぐちゃに入り組んだ複雑なものです。再現性などないんです。


著者は現代思想を通して
「世の中には単純化したら台無しになってしまうリアリティがある。それを尊重する価値観・倫理を示したい」
のだと言います。

大賛成です。

科学的再現性のためには要素を分解して統計を取ることが必要ですが、人は n=1 の経験や感情によって動くものです。

複雑なものを複雑なまま受け入れるよう努力する。

単純化して決断しなければならないことはあるけれど「選ばなかったものへの忸怩たる思い」が優しさになる。

素晴らしい言葉です。
私もそんな生き方をしたいと思います。


一方で著者の「最近の世の中はきちんとしすぎて窮屈」という感覚とは、少し認識がずれてます。

自分の実感としては、ここ最近むしろ同調圧力が緩んできているように思えます。

・飲み会1杯目がビールじゃなくてもいいじゃん(ビールでも可)
・なんなら飲み会断ってもいいし(行ってもいい)
・大人がアニメ好きでもいいじゃん(嫌いでもいい)
・会社にラフな格好でいってもいいじゃん(スーツでもいい)
とか、個人が普通に生活する分には、むしろ自由度が上がってと感じています。

確かに「ちょっとした失言がネットで大炎上」みたいなことは増えて、言論の自由が制限されている感はあるかもしれません。

でもそれは、規範意識が厳しくなったというより、情報の拡散力が桁違いになったことが主な原因に思えます。
騒いでいる人は目立ちますが、サイレントマジョリティーは結構冷静なのではないでしょうか。

実生活のレベルで、監視されているとか、以前より息苦しくなったと感じることは、個人的にはありません。

私としては
・多様性が認められる快適な世界の中で
・より高解像度にものごとを見ていく
という姿勢で「現代思想」に取り組んでみたいと思います。

要約

デリダ、ドゥルーズ、フーコーの3人を軸に現代思想を語る。
ラカン、フロイト、ニーチェ、マルクスなどの思想にも言及され「現代思想はどのような流れの中にあったのか」も説明されている。


デリダは観念の脱構築

デリダの思想は世の「二項対立」から「脱構築」していく。

私たちは物事を「良い・悪い」など相反するものの対立として捉える。これが二項対立。
これに対し「悪いとされた方は本当に悪いのか」とか「対立の軸をずらしてみる」のが二項対立からの脱構築。

例えば「お金持ちは幸せで、貧乏だと不幸」という二項対立に対し「貧乏だからこそ感じられる幸せもあるのではないか」とマイナスの捉え方を「本当にそうなのか」と疑ってみたり、「そもそも経済状況を幸福の尺度にすることが適切なのか」と軸をずらしてみたりする。

「悪の組織」と「正義の味方」の対立であれば理解しやすく「考えるコスト」は低いけれど、個々の複雑な状況を見ないと分からないこともたくさんある。

ドゥルーズは存在の脱構築

ドゥルーズ思想の中心は「差異」にある。

「AとBは無関係で違うもの」という対立構造があっても、実際にはAとBの間にはさまざまなレベルの複雑な関係がある。逆に「同じ」と捉えられるものも、特定の条件で切り取り「仮固定」されているに過ぎない。

こういう「存在の二項対立」に、ドゥルーズは「脱構築」を仕掛ける。

例えば、「私はコップではない」という「差異」は明確に思える。
けれどコップと私の間には複雑な関係がある。使用者と使用されるものかもしれないし、生産者と生産されるものかもしれない、洗う者と洗われるものかもしれないし、デザイナとデザインされるものかもしれない。そこには無限の関係が複雑に絡まり合っている。

一方で、例えば「自分は日本人」という「同一性」も一面的なものだ。
生まれた場所、両親の国籍、ベースにしている文化、その時使っている言語、今住んでいる場所等々、どこを切り取るかによって見え方は変わる。自分=日本人というアイデンティティも「仮固定」に過ぎないといえるだろう。

フーコーは社会の脱構築

フーコーは社会的視点から脱構築を考える。

社会において、人や出来事は「正常・逸脱」という二項対立で捉えられている。

逸脱の極端な例は法律違反だし、場にそぐわないファッションも軽い逸脱だ。逸脱を諫めて正常の枠内に収めようというのが統治で、近年ではこれがより巧妙になってきているのだという。

だが「正常と逸脱の間にも複雑な関係があり、その差異は絶対的なものではない」とその二項対立を脱構築しようとしている。

また「支配者と被支配者」という二項対立にも切り込んでいる。

「悪い支配者が、弱い被支配者を搾取し苦しめている」というのは分かりやすいが、支配者と被支配者の関係もドゥルーズのいうように複雑で一面的ではない。実際には被支配者の方が権力を求めているのだともいえる。


以上のように「二項対立と脱構築」をベースに「過度に秩序立とうとしている世界からの逸脱」が主題となっている。

おまけの「現代思想の読み方」も有用だった。
「本を読むのに完璧はない」という立場で
・訳文の場合は原語の構造を思い浮かべて読む
・レトリックはカッコつけ、無視でOK
・固有名詞はひけらかし、スルーでOK
・観念の二項対立を意識すると把握しやすい
という実用的な読み方を紹介している。

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