俺ではない炎上
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「自分は悪くない」
みんなが言ってるの、それだけだね
「冤罪から逃れる男性の逃走劇」です。
偽装されたTwitterアカウントから死体写真が拡散され、徐々に追い詰められていく泰介。
普通なら「泰介は助かるのか? 憎き真犯人は誰か?」という読み方になりそうですが、本書では濡れ衣を着せられた泰介の「気持ちの悪さ」が前面に出て全く感情移入できませんでした。もう圧倒的な嫌悪感です。
でも、読み進めていくうちに「泰介が嫌悪感を引き起こす理由」が、他の登場人物にも大なり小なり当てはまることが見えてきます。泰介の家族にも追う立場の警察にも。
やがてそれが、読者である自分にも「お前は泰介と違うと言えるのか?」と問いかけてくるのです。
実に薄寒い怖さです。
緻密な伏線だったり、ネットを使って追い詰められる緊張感だったり、ミステリとして間違いなく極上の作品です。
でも私には「泰介への嫌悪感が自分に返ってくる怖さ」が刺さりました。
ちなみに私が一番嫌いな小説の登場人物は、アガサ・クリスティ『春にして君と離れ』のジョーンですが、これも本作の泰介に嫌悪感を覚えるのと同じ理由だと気づきました。
自分を見せられる「鏡」が気持ち悪いんですね。。
あらすじ
大学生の住吉初羽馬は友人のアカウントから流れてきた死体写真を拡散させる。
特定班は発信元が大手ハウスメーカ営業部長の山縣泰介だと断定した。全く身に覚えのない泰介だったが、職場にも家にも居られず警察から追われ、ひたすら逃げ続ける。
泰介は、娘の夏美が小学生だった10年ほど前に、これもネット絡みで起きた事件を苦々しく思い出していた。
そしてその頃、被害者の友人だという女性「サクラんぼ」が初羽馬と一緒に泰介を追っていた。