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祈りのカルテ 再会のセラピー

祈りのカルテ 再会のセラピー

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なあ、医学とは何を目的とした学問だと思う?

病院を舞台とした謎解きミステリです。

研修医 諏訪野良太が病院で起きる「患者の不可解な行動の謎」を解き明かしていく『祈りのカルテ』の続編。

天久鷹央シリーズのキャラクタも登場して、知念ワールドがつながっていくようなワクワク感も。
でも鷹央シリーズとはアプローチが違ってます。

鷹央シリーズが、病気や薬品が謎解きのキーとなる純然たる「医療ミステリ」だといえるでしょう。

対して本シリーズは、患者の行動からその心理を読み解いていく「病院を舞台とした日常ミステリ」に近い。

他人の感情を読み取ることができない鷹央と、他人に同調しすぎてしまう諏訪野も対称的ですね。

で、結局どちらのシリーズも面白い。
この幅広さはさすがです。



本作で何より心に響いたのは「指導医たちの真摯な姿勢」でした。

一見わがままにみえる患者の思いを汲み取ろうとする優しさ。限られた選択肢の中で常に最善を目指していく真剣さ。

主人公の諏訪野もいいのですが、実習先の指導医が全員それぞれカッコいい。

実際にはこういう医師ばかりではないのでしょう。でも、少なくとも、ここまで真摯な姿勢で患者と向き合う医者がいるということが、医療への信頼感につながっていきます。

作者の知念実希人さんは、コロナ以降Twitterなどで医療に関する直接的な啓蒙活動にも腐心されていますが、作家としての医師+ストリーテラーとしての活動も長期的な啓蒙として有意義なのだと思います。

統計的に正しいとしても心が受け入れないと行動にはつながりません。感情や経験は統計データではなく常にn=1 なのですから。

物語は自分自身の経験の代理になり得ます。
だから、その力はものすごく強力。
世界をゆっくり変えていく力になるのだともいます。

あらすじ

救急夜噺
救急救命部で研修していた諏訪野は、救急搬送された秋田を担当する。

秋田はひたすら入院治療を求めるが異常の原因が掴めない。指導医の柚木は諏訪野に薬物検査をするよう指示を出した。

秋田はなぜ入院にこだわるのか。

割れた鏡
研修中の形成外科に女優の月村が訪れる。

月村は美容整形を要求したが、その顔はすでに何度も整形手術を施され、これ以上は危険が伴う状況だった。

指導医の三上は難色を示したが、結局は手術を請け負う約束をする。

月村は、かつてアイドルとしてデビューしたがスキャンダルを起こして引退し、その後に整形手術をして女優としてブレークした。

だがさらにスキャンダルを繰り返して徐々に表舞台から遠ざかっていた。

月村がリスクを犯してまで美容整形にこだわるのはなぜなのか。

二十五年目の再会
諏訪野は最後の研修先となる緩和ケア課で、末期癌患者の広瀬の担当となった。

思い残すことがないよう広瀬に家族との対面を提案するが「犯罪歴のある自分は子供と会うことはできない」という。そしてそれは「冤罪だった」のだと。

諏訪野は冤罪を晴らすため25年前の事件の調査に乗り出した。


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