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高原のフーダニット

高原のフーダニット

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公言した上での「叙述トリック」
「作中人物と読者が同時に驚愕するようなミステリ」は成立するのか。

あらすじ

犯罪学者の火村英生と作家の有栖川有栖が活躍する3つの中編ミステリ。

2つめの「ミステリ夢十夜」はミステリではないか。。

1.オノコロ島ラプソディ

 冒頭から、有栖川と編集者の会話で「叙述トリック」を仕掛けることが強烈に匂わされてのスタート。

淡路島で起きた殺人事件の調査に火村が関わり、有栖川も合流する。

被害者の蛭川から借金をしていた長益が容疑者となったが、元刑事の打保が長益のアリバイを証言した。事件のあった時間、長益は打保と一緒にいた。30分ほど不在となったが、打保邸から犯行現場まで30分で往復することは不可能だった。

もう一人の容疑者 小清水も、出会い系サイトであった銀行員と一緒にいたという証言があり、犯行は不可能と思われた。

作者はどのような仕掛けを施したのか。

2.ミステリ夢十夜

夏目漱石の夢十夜のように、有栖川のみた夢を描いた10編の短編集。ミステリにはなっておらず、不可思議な雰囲気を味わう作品だ。

3.高原のフーダニット

双子の弟を殺してしまった男が火村に「自首したい」と連絡をしてきた。ところがその翌日、双子の弟と電話をしてきた兄の両方が殺されていることが発見される。火村と有栖川は事件の起こった高原に赴き調査をする。

高原にはミステリ好きの主人が経営する「風谷人(フーダニット)」という、小規模なペンションがあった。火村と有栖川は周辺住人が集うその宿を拠点として事件の捜査に取り組む。

感想・考察

「オノコロ島ラプソディ」の叙述トリックが中々挑戦的だ。作中で有栖川が「作中人物と読者が同時に同じことに驚くような仕掛けにしたい」と言っている通りの展開になっている。

叙述トリックでは「嘘はつかないが、本当のことを全部は言わない」ことでミスリードを誘う。

実際には現実社会でも「嘘はつかないけど、本当のことを全部は言わない」という作戦は頻繁に行われているのだろう。逆にいうと「事実を統べて伝える」は不可能である以上、必ず恣意的に伝える内容を取捨選択しているのであり、意識的か無意識かを問わず「伝わり方をコントロールしようとしている」のが当たり前だ。

本作ではデフォルメされ過ぎていて「これって叙述トリックなの??」という感じだったが、敢えて分かりやすく「印象コントロールの作り方」を見せているという意味で、挑戦的で面白いと思った。

これからも変わらず「叙述トリック的な生き方」をしていこうと心に決めた。

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