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僕が電話をかけていた場所

今度こそは幸せな結末にしたかった。。。『僕が電話をかけていた場所』

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あらすじ - ネタバレあり

君が電話をかけていた場所」の続き。

 

顔の痣にコンプレックスを抱いていた深町陽介は、謎の女から「顔の痣を消す代わりに、夏の終わりまでに初鹿野唯と両想いに慣れなければ命をもらう」という賭けを持ち掛けられる。

顔の痣がなくなった陽介は高校で良好な人間関係を築きあげ、同級生の荻上千草には積極的な好意を寄せられるようになった。

しかし、数年ぶりにあった唯の顔には大きな痣ができていて、自殺未遂を繰り返すなど人が変わってしまったようだった。陽介の思いを知りながら明確に拒絶する。

ここまでが前編「君が電話をかけていた場所」の話。

 

それでも陽介は諦めず、唯が夜中星を見に行くのに同行し続けた。陽介は荻上千草と天体望遠鏡を持つ友人檜原祐也も誘い、4人で夜の天体観測を続けた。

4人は幸せな時間を過ごしていたが、檜原が千草に好意を抱き、唯は徐々に檜原に想いを寄せ始めたのを知り、陽介は複雑な気持ちを抱いていく。

ところがある日、急に唯が行方不明になった。唯の姉は彼女の様子がおかしかったと言い、唯は再び自殺を試みようとしているようだった。

陽介は千草にも唯の捜索を手伝ってもらえるよう頼んだが、千草は協力を拒んだ。千草はなぜか陽介の賭けのことを把握していて「唯が死んでしまえば、陽介が欠けに負けることはなくなる。唯が見つからないことを祈っている」と言った。

その後、唯は海に身を投げたところを救助され、一命をとりとめた。

陽介は千草がどうして賭けのことを知っていたのか考え、彼女も賭けの経験者であることに思い至った。

陽介が千草が、小学生のころに病院で出会った車椅子の少女だったことを思い出し「千草は脚が治ることと引き換えに、陽介と両想いに慣れなければ命を失う」賭けをしていたのだと知る。賭けの期日に、陽介の見ている前で千草は泡のように消えてしまった。

千草は水難事故にあって死んだということになっていた。千草に想いを寄せていた檜原は怒りを爆発させる。檜原は、唯が中学時代に急変した「空白の4日間」について調べ、その時も周囲の人間の死を招いていたことを知り、唯への疑惑を深めていった。

陽介は意識が回復した唯に会いに行ったが、彼女は記憶を失っていた。

唯は記憶を失う前に書いた日記を読み、自分が檜原という男に好意を抱いていたことを知る。見舞いに来てくれた陽介を檜原だと勘違いし、陽介は檜原のフリをしてしまう。

陽介に賭けを仕掛けた謎の女は「檜原のフリをするのはルール違反」だと怒り、陽介に自分の正体を明かすことができなくなるペナルティを課した。

唯は療養のため祖母の家で過ごすこととなり、陽介も檜原のフリをしたまま一緒に過ごすことにした。

いなくなってから届いた千草からの手紙には「謎の女」の居場所を突き止めるための考察が書かれていたが、陽介は賭けから逃れるよりも最後の時間を唯と一緒に過ごすことを選んだ。

掛けの最終日である8月31日の深夜、海辺に訪れた陽介はある人物と出会う。

感想・考察

前編である「君が電話をかけていた場所」に仕掛けられた伏線の回収が鮮やかだ。

どちらかと言うと、千草の方に感情移入してしまったのでハッピーエンドではなく、悲恋の物語であったように感じる。

三秋さんの話は「一見バッドエンドだけれど、登場人物の内面はハッピー」というのが多いが、この作品は「ハッピーエンドだけれど、ある面から見ると物悲しい」という作りになっている。

ラストの所で、野上の妹が「幽霊を見付けた」と言っているのが千草のことで、彼女がまだこの世界に干渉しようとしているのだろうか。あるいは野上の妹に「世界の見方が変わるような何か」が投げかけられたのだろうか。

残された千草の思いが気になる終わり方だった。 

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