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今夜、世界からこの恋が消えても

今夜、世界からこの恋が消えても

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前向性健忘症を抱えた女性のラブストーリー。

「前向性健忘」は
・銘記(出来事を心で感じ取る)
・保持(銘記したことを心に刻む)
・追想(保持したことを思い出す)
という記憶のステップのうち「保持」ができず、新しい記憶を保てない病気だ。

「追想」に障害があると、ある時点のことを思い出せない「逆行性健忘」となる。

主観的には、逆行性健忘では「過去が失われた」と感じるのに対して、前向性健忘では「未来を積み重ねることができない」と感じられるのだろう。

どちらもイヤだけど、未来を失う方が辛い気がする。

過去の経験を忘れたとしても人格が保持できない訳ではないと思う。
「人格」の本質は「蓄えられた経験の情報」ではなく、「肉体というハードウェアによる反応の積み重ね」の方にあるのだろう、と言う考え方だ。

一方、未来に記憶が繋げないのはとても怖いと思う。
未来が失われたように感じてしまうだろう。

でも実際のところ、健全な人間でも、今日の記憶をどれだけ明日に残せているというのだろう。

意識のフレームに入らなかった出来事はどれだけ大切であっても記憶に残らない。
何が意識のフレームに入るかは、それほど主体的に選べているわけでなはいし、フレームに入った出来事もストーリーに乗らなければ、記憶として保持されない。

結構あやふやに日々を繋いでいるんだな、と思う。

だからこそ、必死に記憶を残そうと戦う真織や、主体的に「良い記憶」を作ろうとする透の奮闘が、美しく見えるのでしょう。

あらすじ

神谷透は罰ゲームで「嘘の告白」をする。
日野真織は彼が本気でないことに気付き「本気で好きにならないこと」を条件に告白を受けた。

真織は眠るとその日の記憶を失ってしまう「前向性健忘症」を患っていた。
透との日々も「日記に書いた記録」の積み重ねでしかない。

真織の前向性健忘症を知らされた透は、気づかぬふりをする。
そしてやがて透は 本気で真織に恋をした。

真織の記憶が積み重なることがないと知りつつ、それでも彼女の日記が楽しいことで溢れるよう全力で愛していく。

綿矢泉は、真織の病気を知り親友として彼女を支え続けてきた。
当初は透の不誠実な態度に不信感を抱いていたが、彼の真織への想いが変わるのをみて、彼を信頼し共感を抱いていった。

記憶が積み重ならない真織だが、透の想いを受け少しずつ変わっていった。

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