ダーティースノウ
こちらで購入可能
あらすじ
2編の中編小説。
赤銅色の日誌
入院した祖母を見舞った坂口信二は、皆既月食を見て、数十年前同じく皆既月食の日に事故死した祖父のことを思い出す。
当時まだ小学生だった信二は祖父の家に訪れていた。祖父は深夜の皆既月食に備え、「準備をする」と言って出ていったきり戻らない。
信二は父たちと様子を見に行き、祖父が崖から転落死死亡しているのを発見した。祖父の家に戻った信二は、普段は優しい祖母が何かの瓶を抱え、恐ろしい表情をしているのを見付けてしまう。
結局、祖父の死は事故として処理されたが、信二の中にはわだかまりが残っていた。祖母の寿命が短いことをしった信二は真実を探ろうとする。
叔父や祖母の近所に住む人々に話を聞くと、当時の祖父は酒癖の悪さで評判で、祖母が祖父を恨んでいたに違いないと言う。
信二が祖母に話を聞くと、倉庫にある「赤いモノ」を処分するよう頼まれる。
赤銅色の表紙のノートには、祖父についての日誌が記されていた。
ダーティースノー
大学3年生の冬、早々と内定をとった仁科と飯田は、友人の坂口に誘われてスノーボードに赴く。坂口は思いを寄せている女性との距離を縮めるため協力して欲しいと言った。
現地に着いた後、仁科は共通の友人 羽鳥も呼び寄せたが、車で迎えに行ったまま口論となり、仁科は羽鳥を殺してしまった。仁科は羽鳥の死体を隠し、同行していた飯田にも脅しをかけて口封じをした。
東京に戻った仁科の家の郵便受けに「お前がしたことは許されない」と書かれた紙が投げ入れられる。殺害現場にいた飯田がやったのかと疑うが、飯田を問い詰めるため一緒にいた間にも新たな告発文が届き、誰の仕業か分からなくなる。
実は羽鳥は仮死状態だったのかもしれないと考えた仁科は、死体遺棄現場に戻る。
感想・考察
「赤銅色の日誌」は哀愁のある作品だ。
普段太陽の光を反射している月だが、地球に隠れた月食では、屈折して乱反射した赤色光だけが見える。普段は明るい直接反射にかき消されて見えないが、本当はいつでも屈折した赤色光は含まれている。
あかるく優しい祖母の姿、小学生の目には仲良く理想的な関係に見えた祖父母だが、祖父の事故によって光を断たれた瞬間、祖母の違う表情が見える。
大人になって気づく人の多重性は、怖くもあり切なくもある。
「ダーティースノー」は、最初から犯人が分かっている倒叙形式だが、自己保身しか考えない犯人に感情移入できず「追われる怖さ」を感じることはなかった。それくらい清々しいクズだった。