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ゴーストコール: 電話線のない黒電話

ゴーストコール: 電話線のない黒電話

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あらすじ

小学3年生の秋、 乙坂苗は、蔵に見つけた古い黒電話に、かつて失踪した母親 莉亜からの電話を受け、物語が動き出す。

まだ苗が幼かった6年前、莉亜は「数日間出かける」と言い残しいなくなっていた。莉亜の失踪後、苗と父親の敦彦は、地方都市の白泉市から母方の祖父母の住む江西町に転居していた。

田舎町の人間関係は濃密で、苗は学校で「母親が失踪したかわいそうな子」という扱いを受けていた。それでも、何人かの友人や、カッコいいお姉さんの稲垣玲たちに助けられ、充実した日々を過ごしていた。

苗たちが4年生に進級した春頃、同級生の川瀬太一の家に、オリバー少年がオーストラリアからホームステイに訪れた。
ある日、オリバーはキーホルダーを無くしてしまい、太一と一緒に町中を探していた。オリバーに一目惚れした桂木心美がキーホルダー探しを手伝い、太一に片思いしている苗と、友人の斉田郁美も合流した。
神社にいた「不思議な子ども」の助言でオリバーのキーホルダーは見つかった。

初夏を迎え、苗たちは夏祭り翌日に肝試しを企画した。
そこで斉田郁美は、ある男の子との仲の良さを、同級生の鳥飼絵里から嫉妬され、かんしゃく玉で驚かされる。郁美は崖から転落し大けがを負ってしまった。

郁美にはもともとADHDの傾向があった。母親の美音は肝試しでの事件で娘がいじめられているのではないかと心配し、より専門的な治療を受けられる都会に引っ越すことに決めた。苗や心美と離れたくない郁美は突然姿を消し、どこかに向かった。
キーホルダー探しの時にも現れた「不思議な子ども」が再び現れ、郁美の行き先を教えてくれた。


「不思議な子ども」の正体は、苗の父方の祖母 愛里の幽霊だった。
苗と愛里は莉亜失踪の謎を解くことを決意する。

苗と黒電話でつながった莉亜だが、自分が今どこにいるのかは分からないという。失踪の2ヶ月前くらいからの記憶が残っていらず失踪の理由も分からない。

愛里は苗が生まれる前に乳がんで亡くなっていた。
愛里の夫である隆司が、海外不動産への投資話に騙され大金を失った直後に彼女のがんが発見され、治療の甲斐なく死んでしまった。
息子の敦彦は、隆司が欲をこいて、母親の治療に十分なお金をかけられなかったと考え絶縁した。その後、隆司も姿を消してしまう。

当時の莉亜は、義父の隆司と夫の敦彦の間を取り持とうと考え、投資詐欺の真相を探るため隆司の残した日記を読み込んでいたようだった。

今でも父親を憎む敦彦は、娘の苗が隆司の日記を調べることに反対する。
だが、その日記には、大きな秘密が隠されていた。

感想

世代を超えたミステリ、甘酸っぱい恋愛、少年少女のジュブナイル、スマートスピーカーやウェアラブルデバイスのガジェット情報、家族の絆、幽霊ファンタジー などなど、色んな要素が詰め込まれた作品。その分ボリュームもある長大な話だ。

なかでも面白いのが「小学生視点から見た大人たち」の姿だった。「大人も結構子供」であることがばらされてる。

大学生になった苗は言う。

大人になっても、まだまだ大人になり切れていない感じがある。でも、そんなものかもね。大人みたいな大人はいない。年をとっても子供みたいな部分は残っているんだ。


身体は大きくなって知恵がついても、子供のころに想像したような「完璧な大人」になんてなれない。子供のころは大きく見えた父親も母親も先生も、みんな心の中に「子供」を残している。コントロールできない衝動性、逃げちゃう弱さはなくならない。

だから人の弱さを理解できるし、たまに弱さを克服した時に喜びがある。だからこそ人生は楽しい。

「体は大人、心は子供」で、自分の中の「子供」を大切にしたい。

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