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そして誰もいなくなった

そして誰もいなくなった

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あらすじ・概要

イギリス兵隊島のオーエンの屋敷に、様々な属性の10人呼び寄せられた。

最初の被害者は、奔放な青年のアンソニー・マーストン。かつて自動車事故で子供を殺していたが、自分の責任を認めることがなく、荒い運転を改めることもなかった。毒物入りの酒を飲み最初の死者となる。

2番目被害者エセル・ロジャースはオーエンに雇われ数日前に屋敷に訪れた家政婦。夫のトーマスと共にかつての雇い主を「消極的に殺害」した疑いがもたれていた。致死量の睡眠薬を飲まされ殺される。

3番目は退役した将軍のジョン・マッカーサー。妻の愛人を危険な戦地に送り戦死させていた。後頭部を殴られ死亡する。

4番目のトマス・ロジャースもオーエン邸の使用人。妻のエセルと共に数日前からオーエン邸に来ていた。燃料の薪を準備している最中、斧で後頭部を切られる。

5番目のエミリー・ブレントは厳格な老婦人。未婚の母となった使用人の娘を自殺に追い込みながら一切悔いることが無かった。首に注射を打たれ毒殺される。

6番目は元判事のローレンス・ウォーグレイブ。ある裁判で陪審員を意図的に有罪に導いていた。赤いマントとグレーのかつらで判事としての正装をさせられ、最後には銃で額を撃ち抜かれ死ぬ。

7番目は医師のエドワード・アームストロング。かつて酒酔い状態で医療事故を起こし女性患者を死なせていた。海に突き落とされ溺死する。

8番目は元警部のウィリアム・ブロア。かつて賄賂を受け取り法廷で偽証し、無実の男を死に追いやっていた。窓から落ちてきたクマの置物に潰され死亡する。

9番目は元軍人のフィリップ・ロンバート。かつて戦場で民間人から食料を奪い21人を死なせていた。最後2人だけになったとき疑心暗鬼となったヴェラから銃で撃たれ死亡する。

最後は教師のヴェラ・クレイソーン。病弱な少年の家庭教師をしていたが、その少年が死ねば恋人に資産が入ることから、少年を海で泳がせ死に追いやった。フィリップを銃殺した後、罪の意識にさいなまれ首を吊って死亡した。

最終的には10人全員が死亡したが、島には他の人間はいなかった。
誰がこの犯行を計画し実行したのか。

感想・考察

プロットの上手さに感服させられるが、人物の描写も素晴らしい。10人のそれぞれの罪と、作者がそれをどう捉えているのかというのも興味深い。

他人への関心が弱く罪の意識が希薄でサイコパス的なマーストンは、最初の被害者で追い詰められる恐怖を感じずに死んでいる。考えのない「単なるバカ」で、周到な悪事よりは罪が軽いという考えなのだろうか。

ロジャース夫妻の「未必の故意」による消極的な殺人には容赦はない。従犯と思われる妻のエセルは眠っているうちに楽に亡くなったが、夫は斧で頭を割られるという凄惨な死に方をしている。積極的に手を下したかどうかではなく、内面の意思が問題ということなのだろう。

飲酒状態で手術に失敗したアームストロングも裁きを受けている。医療事故と考えると「飲酒しているから処置はできない」と拒否できる状況だったのかどうかは気になるところだ。

判事のウォーグレイブは恣意的に有罪に誘導したが、後から証拠が見つかり「結果的には正しかった」と判断されている。私の感覚では「証拠が無い時点で、自分の感性を根拠に、疑わしきを罰した」ことは正しいとは思えない。

様々な罪の類型の中でも最も醜悪に描かれていたのはエミリー・ブレントだ。「自分の正しさ」に固執し、自分と違う考え方を持つ者を蹂躙することを全く躊躇せず、むしろ正義の行使と考える。

同じくクリスティーの「春にして君を離れ」の主人公と同じタイプのエミリーは、吐き気がするほど胸糞悪く描写されている。おそらく作者はこういう人間が相当嫌いなのだろう。

舞台作りの巧みさと、人間ドラマの深みが両立している。さすがは長く読み継がれる名作だ。

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