片耳うさぎ
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あらすじ
小学校六年生の蔵波奈都は、都会のマンションから田舎町にある祖父の大屋敷に引っ越してきた。奈都と母親は屋敷の一室を借りていたが、祖父や大叔母とは距離を感じていて、奈都にとってはその大きな屋敷が不気味だった。
ある時、母方の祖母が入院し、奈都は一人で過ごす数日を心細く感じていた。
クラスメートの男子から、蔵波の屋敷に興味があるという「さゆりねえちゃん」を紹介してもらい、母親が戻るまでさゆりに泊まってもらうこととなった。
初日の夜、さゆりは奈都を連れ屋敷の探検にでかけた。二人が屋根裏を探索していると、そこに何者かを見つけ、二人は慌てて逃げだした。
奈都は屋根裏にカーディガンを落としてしまったが、翌日彼女が学校から戻ると、きれいに畳まれたカーディガンが部屋に戻されていた。またそこには「片耳を切り落とされたうさぎのぬいぐるみ」も置かれていた。
ずっと昔に蔵波家で家政婦として働いていた「みやバア」は「蔵波家は狙われている。うさぎを家に入れてはいけない。片耳のうさぎは危ない」という。
その地域に伝わる伝承があった。
「ひとりの美人を巡り、庄屋の息子が小作人に片耳がちぎれるほどのケガを負わせ、その怪我がもとで小作人は死んでしまった。その小作人を愛していた江女性は村を離れていってしまった。
数年後、庄屋の息子が他の女性と結婚するとき、片耳のちぎれたうさぎが現れた。家のものはそのうさぎを屋敷にいれたが、うさぎはもののけを呼び出し、庄屋とその息子が殺されてしまった」という話だ。
蔵波家でも、奈都の曾祖父の兄が婚約発表しようとした宴会で食事に毒ゼリが混入し、その父と一緒に亡くなってしまうという事件があったという。
屋根裏にいたのは何者なのか。
奈都におくられた「片耳うさぎ」は何を意味するのか。
感想・考察
いろいろな面から楽しめる作品だった。
幼いころに見た美しい部屋は夢だったのか。屋敷の隠し部屋を探す少女の冒険譚として、蔵波家の数世代に渡る因果を紐解くミステリとして、片耳を切り落とされたうさぎの伝承にまつわるオカルトミステリとしても、面白い。
温かくほのぼのした雰囲気の底に、どこか冷徹に現実を見つめる視線も感じる。
大崎梢さんの魅力が詰まった作品だ。