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心の闇に灯りを点せ~不思議な少女の物語~

心の闇に灯りを点せ~不思議な少女の物語~

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あらすじ

  • 家庭教師

大学一年生の松本悠斗は、中学生3年生の大塚彩の家庭教師となった。

彩の父親は浮気を繰り返し家庭を顧みない。
彩は父への不信感から反発し、学校も不登校気味で高校進学が危ぶまれたため、家庭教師を雇うことになったのだという。

彩は父親には反感を持っていたが「母親を困らせてはいけない」という思いはあり、何もできない自分に無力感を感じていた。
また、父の浮気や、好感を持っていた先輩から強引に体を求められた嫌悪感から、男性不信にも陥っていた。

そんな中、彩の話を受け入れ、何かを無理に押し付けようとはしない 松本に、彩は徐々に好感を抱いていく。

彩の母親の病気が発覚し手術を受けることになる。
母親は入院し父親も不在となったため、松本は彩の家に泊まることになった。

やがて彩の母親は無事退院する。
女性問題で左遷された父親に見切りをつけ、彩と母親は二人でオーストラリアに移住することを決めた。

  • 心の闇に灯りを点せ~不思議な少女の物語~

神本宮麗は幼少の頃から霊感が強かった。

宮麗は人の守護霊などに反応してしまうことで「変わった子」と扱われる。
中学生になることには、反応を抑え目立たないよう努力していた。それでも以前からの噂もあってクラスでは孤立していた。

そんな中、転校生の佐藤君が宮麗に近づいてくる。成績優秀で学年トップだった宮麗に、佐藤君は勉強の秘訣を尋ねた。
宮麗の勉強法はしごく正攻法で教える点はなかったが、「学問の神さま」にお参りすることを勧めた。

それから宮麗と佐藤君は、一緒に勉強をしたり神社仏閣巡りデートを繰り返したりして、ゆっくりと恋仲になっていった。

やがて、宮麗に好意を持った生徒会長の梅沢君、佐藤君に思いを寄せる石本さんが現れ、4人の関係は複雑化していく。

  • 白い蛙

明治中期、浦安に暮らす 近松与平 の話。

与平は魚の行商人だった。
魚の価格変動が激しい上にライバルも多く安定した利益を上げることができず、つい手を出した賭博で更に損失を重ねていた。
妻の佳代は生活費補填のため内職をし、病弱な体には負担になっていた。

ある日、与平は干上がりかけた池にいたオタマジャクシを救う。
なかでも「白いオタマジャクシ」が目を引いた。

白いオタマジャクシが来てから、与平の状況は一変する。
魚行商人としての仕事が上手く回り始め、妻の佳代は内職を減らし体調を回復させる。やがて佳代は妊娠し、娘の「桜姫」を授かった。
その頃にはオタマジャクシも成長し、白い蛙になっていた。

与平は桜姫を溺愛し、白い蛙の世話がおざなりになっていった。
やがて蛙は家から消え、与平の生活は再び暗転していく。

感想

表題作の『心の闇に灯りを点せ』では、日本人の一般的な「宗教観」が見えるのが面白い。

・「阿弥陀如来さま」は「主にあの世の人たちの幸せを司る」という。現代日本において、仏教は「死者を弔う」ことと重なっている。

・土着的な八百万の神々には「現世利益」を願う。

・風水に通じる「方位学」も、何となく気にしている。

・孔子が開いた「儒教」も、元々の処世訓・生活哲学としてではなく、宗教的権威をもって受け入れられている。

・クリスマスはイベントとして楽しむけれど、宗教的意味合いは薄い。

「宗教観」の枠組みに違和感がないから、スピリチュアル要素強めでも、すんなりと受け入れられる。

中でも孔子の口を借りて語られた
「人が生きるとは体験すること。人が生きるとは思索すること。人が生きるとは他人のために何かを成すこと」
という言葉は胸に響いた。


個人的に好きだったのは「家庭教師」だ。

まず彩の心情描写が素晴らしい。
父親に反感を覚えながら、同時に父性を強く求めている。
男の先輩に傷つけられても、庇護者としての男性を求め、家庭教師の松本に惹かれていく。
父性に対するアンビバレントな感覚が生々しい。

また松本の生き方が清々しい。
一見すると「自分で決断」するより、周囲を受け入れ「流されている」感じを受ける。だが、松本の中に「こうしたい、こうあるべき」という思いがあるのは間違いない。
「自分の思い」はブレずに持ちながら、大いなる流れに乗っていこうとする姿勢には、個人的には好感を持てる。

なかなか興味深い作品だった。

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