黒い家
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人間の怖さを描いた戦慄のホラー!
要約
保険会社に勤める若槻は、菰田重徳という男の家に呼びだされ、そこで重徳の息子が首吊り死しているのを発見してしまう。
発見時の重徳の表情を見た若槻は、保険金殺人ではないかと疑う。重徳の経歴を調べると、過去に自分の指を切断し保険金詐取を狙った経歴もあるなど疑わしい状況だった。重徳は毎日のように若槻のいる事務所に訪れ保険金支払いを淡々と督促していく。サイコパスの危険性を主張する犯罪心理学研究者の金石も、重徳は普通ではなく即座に逃げるべきだと助言を受ける。ところが警察の捜査の結果、金石にはアリバイがあることが判明し事故死であると結論付けられ保険金は支払われた。
保険金は支払われても重徳による犯罪であると確信していた若槻は重徳の妻である幸子に匿名で警戒を呼び掛ける手紙を送った。
その手紙を見た重徳が激高したのか、若槻の恋人である黒沢恵の飼い猫が殺され、その首が若槻の家の前に置かれるという事件が発生する。警察に相談するが「悪質ないたずら」程度と考え真剣に対応してもらうことはできなかった。さらには、若槻に危険を訴えていた犯罪心理学者の金石も惨殺死体で発見される。
菰田夫妻から新たな保険金申請を受けた若槻たちは、潰し屋と呼ばれる元暴力団の交渉役に事件の収束を依頼するが、さらなる凄惨な事件へと繋がっていく。
感想・考察
菰田夫妻の小学校の頃の文集のくだりでは背筋が寒くなった。やはり人間の醜悪さは怖い。
保険制度が、モラルの欠如から悪用されるケースが増えていることへの憂いが一つのテーマだ。保険会社にとっての商売ベースの話であれば、利益が出る掛け率になっていれば、詐欺でも何でも関係ないのかもしれないが、モラルの悪化を促す可能性は看過すべきではないという立場だ。作者の貴志祐介氏が以前保険会社に勤めていただけあり、問題意識を持っていた点なのだろう。
一方で、若槻の恋人恵が訴える「人間の善性への信頼」に救いを感じる。人は環境によって反社会的な行為を行うこともあるが、完全な悪ではありえない。優生学的にサイコパスを社会から排除したりすべきではない、という主張だ。
これは非常に難しい問題で、犯罪を犯しやすい傾向にあっても環境的要因が無ければ実際に犯罪に至るわけではない。サイコパス的な人間が社会を動かす原動力となることもある。社会全体を考えると多様性を排除すべきではないのかもしれない。だが一方で、個人レベルで「自分や自分の家族を傷つけかねない人」がいると思えば、目の前にいるべきではないと感じてしまう。
長くて凄惨な描写も多いが、色々と考えさせられる話で、是非一読をお勧めしたい。