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『探偵AIのリアル・ディープラーニング』 早坂吝

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AI × 本格推理 × キャラミステリ

さすが早坂吝さん、インパクトのある話です!

あらすじ

高校生の合尾輔(あいお・たすく)は、AI研究者の父が遺したAI探偵の 相似(あい)と共に事件を解決してゆく。

  • 第一話「フレーム問題 AIさんは考えすぎる」

AI研究をしていて合尾創(あいお・つくる)は、仕事場のプレハブ小屋で焼死していた。部屋は内側から施錠されていたため事故死と判断されたが、納得いかない息子の輔(たすく)は現場を調べていく。部屋に隠されたSDカードに相似(あい)というAI刑事が残されていた。

相似は創が生み出した事件解決のためのAIで、似相(いあ)と呼ばれる犯人役のAIとシミュレーションを重ねディープラーニングによる強化がなされていた。

輔は相似の力を借りて事件を解決しようとするが、可能性の濃淡を判断できない相似はあらゆる仮説を持ち出し結論に近づくことができなかった。

  • 第二話「シンボルグラウンディング問題 AIさんはシマウマを理解できない」

犯人役AIとして育てられた似相は、人工知能が人間を統治すべきとする集団「オクタコア」の手に落ちた。「オクタコア」は似相のテストを兼ねて、機械に敵意を抱く環境保護団体「トーキョーゼブラ」への攻撃方法を考案させる。

相似とAI探偵事務所を開設した輔は、「トーキョーゼブラ」で起こった殺人事件の解決に乗り出す。

多くの仮説を考慮しなければいけない探偵AIである相似はフレーム問題に悩み、オリジナルの犯罪考案のためシンボルを具体的に理解しなければいけない犯人AIの似相はシンボル・グラウンディング問題に悩まされる。

  • 第三話「不気味の谷 AIさんは人間に限りなく近付く瞬間、不気味になる」

輔の通う学校でいくつかの事件が発生していた。校庭ミステリーサークル事件から、窓を虹色に塗られる事件、銅像の首が切られる事件など徐々にエスカレートし、ついには生活指導の教員が階段から突き落とされる事件にまで発展した。

その教員を尊敬していたという輔の同級生は、輔と相似に解決を依頼する。

人間の感情を理解し始めた相似は、人間の感覚に近いが微妙に違う「不気味」な推理を披露してしまう。

  • 第四話「不気味の谷2 AIさん、谷を超える」

輔は、父の創が母の焼死事件に疑問を持ち調べていたことを知る。当時輔はまだ幼く記憶はなかったが、父の遺志を継ぎ相似と共に捜査を開始した。

母の故郷に赴き初めて祖母に会うが、AI探偵の話をしたとたん祖母は怒り狂い、二度と顔を見せるなと拒絶する。

母が焼死した山小屋の焼け跡に向かい、自殺でなかった証拠を探そうとする。

  • 第五話「中国語の部屋 AIさんは本当に人の心を理解しているのか」

輔は「オクタコア」に拉致され、相似との「相手をしているのが本物なのか」を見極めるチューリングテストを強制される。ニセの人工知能の方にも相似の記憶が移植され「二人しか知らない」はずのことも知っている状況で、真実を見極めることができるのか。

中国語の部屋は「中国語が分からない男が、漢字の内容を理解しないままでも、対応マニュアルに従って対応していたら、相手には中国語を理解しているように見えるが、本当に内容を理解していると言えるのか」という思考実験をオマージュしたものだった。

感想・考察

AIとミステリという組み合わせも、論理をこねくり回すのが好きな早坂吝さんの手にかかると、独特な面白さを醸し出している。

AIが「複数の仮説の重み付けを判断できない」というフレーム問題を扱うことは、ミステリで「任意の仮説を取れば任意の結論を出せる」勝手さへの疑問提示ともとれる。この問題を「ミステリの多読で解決した」というのも皮肉に感じてしまう。その中に「毒入りチョコレート事件」とかも入っていたのだろうか。

また「不気味の谷」や「中国語の部屋」では、「AIは心を持ちうるのか」という疑問に対して「美しいと思ったかどうかより、美しいと発言したことが大事」だとした。「事実」と「表象」の区別には意味がないという作者のプラグマティズムが垣間見える。

なかなか面白いので続編も読んでみよう。

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