足
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自分でストーリーを作るべきなのだ。
与えられるだけの人間になってはならない。
君は支配されてはならない。
あらすじ
「足」にまつわる3通の手紙が紡ぐストーリー。
1通目は「足のある生活の素晴らしさ」について語る男の手紙。
くるぶしの下から切り落とした足を置くだけで、生活に刺激を与えてくれると言い、いかに足を楽しむかを語る。
「どうやって足を手に入れたのか」を問う相手には、安易なストーリーを得て納得する姿勢が軽薄だと断ずる。
2通目は、1通目を書いた「彼」について語る「私」の手紙。「彼」には、物事へのこだわりを適当に処理できないアスペルガー的な性質があること、それでも本質的には優しい人間であることを訥々と語る。
「私」が「彼」と一度だけケンカをしたのは、生まれたばかりの新生児の足を切り落とそうとしたとき。結局は「私」が折れて、赤ん坊の足を切り落としたことを懺悔する。
3通目は足のない障碍を持つ「私」の話。
私に愛情を注ぎ育ててくれた「彼」と「彼女」は早くに亡くなってしまったが、私は彼らの死を受け入れ、自分の生活を営んでいた。
最近になって「足について疑問をもったら、これを見よ」と書かれた封書を見付け、1通目と2通目の手紙を読んで衝撃を受ける。物置には、彼と彼女の足が加工して保存されていた。
あれだけ優しかった彼と彼女がどうして私の足を切り落としたのか理解できず、信じていた愛を失ない孤独感にさいなまれた。
しかし「私」にも子供ができ、どれだけ子供が愛しいかを知り、違う解釈が生まれてきた。
感想・考察
最初は猟奇的なホラーかと思ったが、最後の手紙で解釈が変わる。
実際に偏執的な父親が生まれたばかりの赤ん坊の足を切り落としたのかもしれないし、足のない状態で生まれた子供のため、自分たちの足を犠牲にしながら、分かりやすいストーリーを用意したのかもしれない。実際の所は明かされない。
だが「彼」は「自分でストーリーを作るべきだ」と繰り返す。
人から与えられたストーリーに頼ってはいけない。人はどうしても自分とは違うし、同じ価値観で生きていくことはできない。人を信じ助け合うのは良いが、人生の意味付けを相手に預けてしまってはいけない。
自分自身が自分の責任で、自分自身のストーリーを紡いでいかなければいけない。
短い作品だが、色々と考えさせられた。