恋のヒペリカムでは悲しみが続かない
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あらすじ
古い洋館にある「ヒペリカム」は「どんな悩み事も解決するクラブ」だと噂されていた。
超絶美形の元No1ホスト、奔放で天真爛漫な大学生、生真面目な体育会系男子、クラブオーナーの自由な老紳士が、お客さんたちと一緒に悩み成長していく。
第一章
小規模なファッションブランドの女社長である藤堂律子は、以前付き合っていた超美形男子に手痛いフラれ方をしたことから、派手な美男子を嫌悪していた。
ところが最近になって、ホスト風の美男子と頻繁に顔を合わせるようになってしまい、乱れる心に困惑していた。
歌舞伎町のホストクラブでNo1だった檜山浩一は、とある理由でホストを辞めヒペリカムに身を寄せていた。
ヒペリカムをホストクラブだと思い来店したハルコは檜山を気に入った。ヒペリカムは飲食費実費を取るだけの無料相談クラブだったが、実費しかとらないことにむしろ不満を覚え、彼のためにお金をつぎ込みたいという。
檜山はハルコの中に自分と同じ「痛み」があることを見つける。
第二章
谷堂誠太はヒペリカムで共同生活をしていた。
元体育会系の彼は生真面目な性格で、ヒペリカムでの家事や雑事をほぼ一人でこなしながら、サラリーマンとして会社に通っていた。
もう一人、ヒペリカムで生活している篠田涼は、自由気ままな大学生だった。
プラモデル作りから編み物、ゲームなど、興味あることに何でも手を出しすぐに飽きてしまう。谷堂と対照的に奔放な生活で、日常の雑事はすべて彼に頼っていた。
谷堂はカメラマン八坂の恋愛相談に乗る。
30歳を過ぎて女性経験のない八坂は、急に距離を詰めてくる高校時代の同級生赤松カナデとの関係に悩んでいた。
派手なグラビアアイドルの赤松がなぜ自分に興味を持ったのか、自信が持てず時間をかけて関係を築いていこうと考えていた。
谷堂は時間をかけて関係構築することに賛同し、綿密なデートプランを立てて計画通り進めていくことを勧める。
篠田は赤松の恋愛相談に乗る。
多くの男を誘惑し落としてきた赤松だったが、好きになった八坂と距離を詰めることができず悩んでいた。
相手をもっと知りたいという気持ちから身体の関係に進むことに躊躇のない彼女は、躊躇する八坂は自分に興味がないのだと感じ自信を失っていく。
篠田は八坂のフェチポイントを探るため、ファッションなどを変えて相手の反応を探ることを提案する。
生真面目な「八坂・谷堂コンビ」と、奔放な「赤坂・篠田コンビ」のすれ違いは続いていく。
第三章
ヒペリカムを作った謎の紳士春日部誠の話。
ある日、イタリア人の少女が春日部を訪ねヒペリカムにやって来た。
檜山、篠田、谷堂 3人は春日部の過去に何があったのか推理していく。
春日部は青年時代に数か月をイタリアで過ごしていた。
熱を出し倒れた彼を、ルチアとその家族が助ける。数か月の滞在中、春日部はルチアと親しくなっていった。
ルチアは彼から日本語を学び、徐々にコミュニケーションが取れるようになっていく。彼女はいつか新聞記者になって閉塞感のある故郷から飛び出したいと願っていた。
感想・考察
人を苦悩から救うのは、悩みを乗り越えた完璧な人ではなく、一緒に足掻き苦しむ伴走者なのかもしれない。
自分の美しさを売り物にし「ホストクラブの客は家畜」だと思ってきた檜山は、美男子に屈折した感情を持ち、内心で彼らを貶めることで心の平安を保っている藤堂の姿を見て、自分の「痛み」に気が付く。
生真面目な谷堂は同じような八坂を見て「真面目さは一歩踏み出す勇気がないことと表裏一体」であることに気づかされる。
奔放な篠田は自分と似た赤松を見て「相手への共感力」が必要だと思い至る。
老練の春日部は直接踏み込むことはせず、若者たちに任せ成長を見守る。
美形男子たちの集うクラブと彼らの共同生活という設定に若干の腐臭を感じたが、真面目に恋愛や成長を描く物語だった。