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一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常

一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常

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あらすじ

蛍川鉄道で働く夏川壮太たちが事件を解決していく。
就職活動に疲れた藤田俊平の物語が重なる。

  • 亜矢子の忘れ物

マンガ雑誌の編集者 亜矢子が、原稿の入ったブリーフケースをなくしたといって駅の遺失物窓口にやって来た。

その原稿は、日本最大の発行部数を持つマンガ雑誌の看板作品の最終話だった。

連載終了に合わせたプロモーションが企画されており、予定通り掲載できなければ莫大な損害が生じる。視力が衰えつつあった作者はこの作品を最後に引退を表明しており、改めて書き直すことも難しい状況だった。

蛍川鉄道は、総力を挙げブリーフケースを探したが見つけることができなかった。

  • 清江と、化けて出たダーリン

壮太たちが勤務する藤乃沢駅には「幽霊が出る」という噂が広がっていた。

近くに住む清江というお婆さんが駅を訪れ「幽霊の正体はなくなった夫だ」といい、御祓いの費用を負担したいと申し出てきた。
お金を受け取るわけにもいかない壮太たちは、まずは幽霊の正体を見極めようと調査を開始した。

  • 俊平と、立派な髭の駅長

大学生の藤田俊平は上手くいかない就職活動に疲れていた。

母親は鉄道会社も勧めたが、変化のない仕事では達成感が感じられないと思い、敬遠していた。
一応蛍川鉄道のOB訪問に行ってみたが「基本単調な仕事で、当たり前のことを当たり前にできる人が出世していく」「駅長になっても大きな権限がある訳でもなく、普段は掃除をしている」という話を聞き、候補から外してしまう。

母親の気遣いをかえって心苦しく感じていた俊平は、できるだけ顔を合わせないよう避けていた。

その日も時間を潰すため電車に乗り続けていたが、やがて雪が積もり始める。

雪の影響でダイヤが乱れ、壮太たち鉄道員は悪戦苦闘していた。
ついには架線故障が起こり、電車が止まってしまう。

感想

二宮敦人さんの「お仕事ミステリ」はどれも面白い。

病院を舞台にした『最後の医者は桜を見上げて君を想う』は、限りある命と向かい合う患者と医師の姿に涙が止まらない。

郵便配達員が主人公の『郵便配達人 花木瞳子が盗み見る』シリーズも、郵便を仲立ちに生まれるドラマが感動的だ。

四柱推命を使う占い師の話『占い処・陽仙堂の統計科学』とか、変わり種ではホストクラブ風の『恋のヒペリカムでは悲しみが続かない』とかも面白い。


それぞれに心を揺さぶるような感動物語が仕込まれているけれど、すべてに共通しているのは「自分の仕事に誇りをもって真摯に取り組んでいる姿勢」だ。

命に関わるドラマを生む医者の話も当然面白いのだが、割と地味な郵便配達員であっても、自分の仕事に真摯な姿は、読む人の胸を打つ。

本作は鉄道員が主役の物語だ。
まあ地味で「独創的な改善よりも、昨日と変わらない今日を維持できる安定性が求められる仕事」だと作中で語られている。

とはいえ「当たり前のことを当たり前」にこなすのは大変なことだ。
電車が毎日時刻通りに事故なく動いていることを「当たり前」にしているのは、手を抜かずその維持管理をしている人がいるからだ。

独創的な変革を起こす人が脚光を浴びる一方、その足元を支える地道な仕事をする人がいる。
その両方が大事なのだ、という思いが伝わってくる作品だった。

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