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失はれる物語

失はれる物語

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ありがとう。
わたしたちはお互いに、
何かを与えあったり、
分けあったりしたわけではない。
ただ、そっとそばにいただけ。
それでじゅうぶんだった。

あらすじ

全8編の短編集。

Calling You

少女は、クラスで一人だけ携帯電話を持っていなかった。話す友達もいないので必要ない。それでも、携帯に憧れ思い描くうち、脳内で携帯のイメージが結実していった。具現化系だ。

ある日、想像上の携帯が、少年からの通話を受信する。少女の側からも適当な番号にかけて年上の女性と繋がる。脳内の妄想ではないことを確かめる方法を聞き、また通話には、発信側と受信側で時間的なずれがあることを聞かされる。

少年と少女は、お互いの時間に30分のズレがあることを知る。お互い学校に馴染めなかった二人は、毎日のように会話を重ね、やがて大切な存在になっていく。

北海道に住む少年は東京に住む少女に会いに来ることを決める。空港まで迎えに行った少女は車で轢かれそうになるが、少年に助けられ一命をとりとめる。ところが少年はその事故で命を落としてしまった。

少女は30分前の少年に嘘をつき、自分が事故死した過去を選ぼうとする。

失はれる物語 

結婚してから妻とケンカが絶えない夫が、居眠り運転のトラックに轢かれ重傷を負う。一命はとりとめたが、右腕以外の感覚をすべて失ってしまった。

目も見えず音も聞こえず、感じるのは右腕の肘から下の部分の感触だけ。できるのは数センチ人差し指を動かすことだけだった。

妻は毎日のように夫の元を訪れ、腕に文字を書き思いを伝えた。夫は人差し指の動きだけで Yes、No だけの思いを伝えた。

ピアニストだった妻は、やがて夫の腕を鍵盤に見立てて音楽を弾くようになる。腕の感覚が鋭敏になった夫は、その音楽から妻の気持ちを見ることができるようになっていく。

数年がたち、夫は妻の奏でる音楽から彼女が疲労していることをしる。何もできなくなった自分に縛られ、未来を失った妻を開放するため、夫は意識の死を偽装する。

父親からの暴力による痣をバカにされ、暴力をふるった オレ は、特殊学級に編入させられる。

自分と同じく家族から見放された境遇に親近感を覚え、オレはアサトと親しくなる。ある日、オレが負った傷にアサトが手を触れると、その傷がアサトに移っていることに気づく。アサトには人の傷を引き取り、またその傷を誰かに移し替えるという特殊能力があった。

手を握る泥棒の物語

友人と会社を興した俺だったが、経営が上手くいかず自分がデザインした腕時計の商品化を諦めざるを得ない状況になる。

その日俺は 温泉旅館まで送り届けた伯母が、カバンに高価なネックレスと現金を収めていたことを思い出し、旅館まで盗みに向かった。

伯母がカバンを閉まっていた押入れの位置に穴を開け、手を突っ込んだところ腕時計を中に落としてしまう。そこに女性の手が出てきて、焦った俺は逃げられないようその手を掴んで脅しをかけた。

手を掴まれた女性とのやり取りがコミカルでカワイイ。

しあわせは子猫のかたち

大学に入った ぼく は、伯父の所有する家で一人暮らしをすることにした。その家では、独り暮らしをしていた女性 雪村さんが少し前に殺されたという。

居着いている子猫が何かに甘えているようなしぐさを見せたり、閉めたはずのカーテンが開いてたり、いつの間にかテレビの電源が入っていたりと、その家では不思議な現象が頻発していた。

ぼくは不思議と恐ろしさを感じることなく、以前住んでいた雪村さんの存在を受け入れていた。

雪村さんは写真が趣味で、家には数多くの写真が残されていた。何ごとにも暗い面を見てしまう自分と比較し、彼女が撮る写真には、ものごとの明るい面が切り取られていた。

彼女の存在を感じながら、奇妙な共同生活が繰り広げられていった。

ボクの賢いパンツくん

ボクの履いていた白いパンツがある日突然しゃべりだした。パンツくんは物知りで授業中に指されたときにも助けてくれる。

特別なパンツを大切にしていたが、破れて汚れたパンツくんをお母さんが捨ててしまった。

マリアの指

夏の終わりの日、高校生の恭介は友人と陸橋で花火をしようとしていた。姉も誘ったが、以前その陸橋で電車への飛び降り自殺があったことから姉は来るのを拒んだ。
その直後に姉の友人であるマリアが、別の陸橋から飛び降り電車に轢かれて死んだという知らせを受ける。

数日後、恭介はマリアに懐いていた猫がマリアの指をくわえてきたのを見付け、誰にも言えずホルマリン漬けにして隠し持った。マリアの指の爪の裏側に糸くずがあることに気づき、他殺だったのではないかという疑問をもち始めた。

姉は高校を卒業して就職していたが、友人のマリアや高校時代の同級生が所属する大学の研究室に何度か訪れ、そこのメンバーと顔見知りだった。マリアの死に疑問をもった恭介は、研究室のメンバーたちに話を聞いた。

マリアは研究室のメンバーの一人と付き合っていた。直前に指輪を受け取っていて、その指輪を付けていれば結婚を承諾したという意味だったという。指輪を贈った男は彼女の意思を確認するため、毎夜一本だけ発見されていない指を探して回った。

すでにマリアの指を発見し、そこに指輪がなかったことも知っている恭介も、彼と一緒に指の探索に加わった。

やがてある矛盾に気づいた恭介は、他殺であったことを確信する。

あとがきにかえて-書下ろし小説 ウソカノ

高校生の僕には安藤夏という彼女がいるという「設定」になっていた。事細かに設定を考え、矛盾が無いようノートを作って管理していた。

ところがある日、同級生の池田君に秘密を知られてしまう。
僕は池田君を殺そうとしたが、池田君も女子大生と付き合ってるという嘘をついていることを告白した。

二人は「ウソカノ」の秘密を共有する仲間となる。

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