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ZOO 2

ZOO 2

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あらすじ

『ZOO 1』の続編。
切なさを感じるホラーから、コメディー色の強いミステリなど、様々なジャンルが詰め込まれている。

  • 血液を探せ!

山奥の山荘で目覚めた男は、自分が血まみれであることに気づく。

以前の事故の影響で痛覚のない男はには出血箇所が分からず、家族に見てもらって脇腹を指されていることを知る。
出血が多く救急車の到着まではもたない。同行していた医者は輸血用の血液を持っていたはずだが、血液を入れていたカバンがなくなっていた。

男と家族は記憶をたどり、カバンのありかを探していった。

  • 冷たい森の白い家

少女は伯母の家の馬小屋で育った。

彼女は馬小屋に閉じ込められ学校に通うこともできず、満足な食事を与えられることもなかった。
伯母の二人の息子は少女に暴力をふるい、ある時は馬に踏みつけられて顔の一部が取れるほどの傷を負ったが、治療することもなく放置された。

伯母の娘だけは少女の頭の良さを知り好意的であったが、やがて寄宿舎のある学校に行き離れてしまった。
その後、残飯すら与えられなくなった少女は飢えに苦しんだが、残飯を漁りながら凌ぎ隠れて暮らした。数年後、成長した彼女は残飯を食べているところを伯母に見つかり、馬小屋からも追い出された。

彼女は森に入り一人での生活を始めた。
人を怖れる彼女は森ですれ違った青年を殺してしまう。それからは森を通り過ぎる人たちを次々と殺し、その死体を使って家を建て始めた。

そんな彼女の家に幼い娘が訪れ「弟を連れて帰らないと母親が悲しむ」という。

  • Closet

ミキは夫の義弟の部屋に来ていた。

義弟はミキの知り合いからミキが犯した犯罪について聞いたという。
数分後、ミキは死体となった義弟を隠し、凶器の灰皿やテーブルの血の跡を隠した。
家族は義弟は外出して戻っていないのだと思っていたが、義妹が「義弟は殺された。自分の部屋で殴られた。凶器は灰皿」と書かれた手紙を見つける。

義妹はミキに疑いの目を向け始めた。

  • 神の言葉

少年の声には不思議な力があった。

彼が声に出して他の人や動物・植物などに言ったことは、必ず実現した。
小学生の頃、自分より立派なアサガオを育てた友人に嫉妬し、朝顔に呪いの言葉をかけると、アサガオは枯れてしまった。以来、自分の能力に気づいた少年は意図的に力を使い始める。
大切にしていたサボテンを粗末に扱う母に憤り、サボテンと猫の区別がつなくなるようにしてしまったり、吠えてくる獰猛な犬をおとなしくしたりした。

少年は人から非難され疎外されることを極端に恐れ、意図的に快活で愛想良く振る舞っていたが、その心のは不愛想に乾いていた。
周囲のすべての人に対し自分を偽っていたが、弟には自分の偽りを見抜かれていると思い、弟から強いプレッシャーを感じていた。

弟を殺したいと考えた少年は、カセットに録音された自分の声を聞いた。

  • 落ちる飛行機の中で

ハイジャックされた飛行機の最後尾の席で、男と女が話していた。

受験に失敗し学歴コンプレックスを持つ青年が飛行機をハイジャックし、T大に墜落させようとしていた。
青年は貧弱に見えたが、取り押さえようとする人々を次々と撃ち殺していった。

女は生きることに執着は無かったが、墜落の恐怖は避けたいと考えていた。そこで男は女に「安楽死ができる薬を買わないか」と持ち掛ける。

薬の代金は女の持つ全財産、これは男と女の間の賭けだった。
もし飛行機が墜落し全員が死ねば、お金を受け取っても使えない男の負け。
もし墜落を阻止できれば、安楽死してしまった女の負け。

ハイジャック犯の青年は、緊迫した状況にも臆せず話し続ける男女に興味を持った。

  • むかし夕日の公園で

小学生の少年は、友人たちが帰った後も公園の砂場で一人で遊んでいた。

どれくらいの深さまで砂があるのか確かめるため、穴を掘り手をつっこむと急に何かに掴まれた。

砂の中の手は少年の手のひらに「ここからだして」と書いた。

感想

ミステリやホラー、オカルトよりのサスペンスなど、色々詰め込まれた短編集だ。前編の「ZOO1」の収録作品よりは若干コメディ色が強い感じがする。

2話目の「冷たい森の白い家」や、4話目の「神の声」は、感情的に何かが欠損した主人公の話で常軌を逸した行動は「ホラー」なのだが、怖さよりも「やりきれない切なさ」が前面に出てくるのが乙一さんらしい。

3話目の「Closet」は、倒叙ミステリと思わせておいてキッチリ落としてくる、練りこまれたミステリで好みの作品だ。

1話目の「血液を探せ!」や5話目の「落ちる飛行機の中で」は、完全にコメディー寄りで笑わせてくる。

前編の「ZOO1」を含め本当に幅広い作風だ。
中田永一名義ではさらに「青春の甘酸っぱさ」系の作品も出しているし、作者の引き出しの多さには驚かされる。

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