BookLetでは、ビジネス書や小説の1000文字程度のオリジナルレビューを掲載しています。

GOTH 夜の章

GOTH 夜の章

こちらで購入可能

あらすじ

暗い残酷な面を好む「僕」と、誰にも心を開かないクラスメートの森野が、凄惨な事件に自ら関わっていく。
本書は前編で、森野夜の物語を中心としてた「夜の章」

  • 暗黒系 Goth

夏休み中の登校日、森野夜は喫茶店で拾った手帳を「僕」に見せた。

その手帳には、若い女性二人が被害者となった連続殺人の状況が克明に記されれていた。公表されていない情報もあり、犯人自身の手によるものだと思われた。

手帳には、発覚している二人以外の殺害についても記されていた。僕と森野は手帳に書かれた現場に向かい、記載通り女子高生の死体を発見する。

僕と森野は、手帳を拾ったことも、死体を発見したことも警察に通報しようとは思わなかった。二人は犯人に畏敬の念さえ抱いていた。

翌日、僕の前に現れた森野は殺害された女子高生と似た服装をし、彼女の写真などから想像される明るい人格を真似るようになる。

その数日後、森野から「たすけて」という一文だけのメールが届いた。

  • 犬 Dog

「僕」と森野が住む町で、ペットの犬が失踪する事件が相次いでいた。
犬が苦手な森野は事件との関りを避け、早々にフェードアウト。

少女は彼女の飼い犬と一緒に夜中に小型犬をさらう。
「私」はユカが望む通り子犬と闘い、喉をかみ砕いて殺していく。本当は殺したくはないが、ユカの望みはどうしても叶えたかった。

母親が連れ込んだ男はユカに暴力をふるう。ユカは反撃することもなく、悔しさと怒りを内側にため込んでいるように見えた。ユカのその怒りが私に子犬を噛み砕かせるのだと思った。

「僕」の妹が、河原で大量の犬の死骸を発見し、僕はその現場に張り込んだ。その夜、河原に子犬を抱いた少女と一匹の大型犬がやってくる。僕は小型犬が喉を噛み切られて死ぬのをみた。

少女が、意を決した様子で「明日の朝に、、」と言うのを聞き、何かを予感した僕は翌朝彼女の家に向かう。

  • 記憶 Twins

森野夜には、夕という双子の妹がいた。夕は9年前、8歳の時に首吊り自殺で死んだのだという。

夜と夕はいつも一緒に遊んでいたが、その中でも「死んだふり」をする遊びが好きだった。
プールで水死体の真似をして監視員を慌てさせたり、ミートソースを頭にかけて道路に倒れ死んだふりをして、運転者を戸惑わせたりもしていた。

二人の外見はそっくりだったが、性格は少し違っていた。
強引な姉の夜とくらべ、妹の夕は弱虫で、いつも姉の言いなりになっていた。

ある雨の日、納屋で夕が首を吊り死んでいるのが発見された。
だが、首吊りロープの他に身体を支えるロープがあったため、死体のフリをして驚かせようとしていたのだと判断された。
身体を支えるロープがう偶然切れてしまったことによる「事故死」だと結論付けられた。

森野の話に疑問を感じた僕は、現場となった納屋を調べに行く。

感想

サイコパス的な酷薄さを持つ「僕」と、死体愛好癖を持ち不安定な森野夜。
二人とも不気味で怖い。
グロテスクな描写と相まって陰惨な物語になっている。

だけれども「夜の章」と題した3つの話を通して「森野夜が抱えている物語」を読み解くことができると、彼女の不気味さは消えていく。

「分からない」のは予測不可能で危険。だから恐怖を感じる。
理解してリスクに対応しようとするのは安全欲求だ。
高度な知的好奇心も、根っこは安全を求める本能的欲求から生まれているのだろう。
だから、謎が解けると強い快感を覚えるし、分からない時には無理にでも説明可能なストーリーを作り上げて安心しようとする。

「夜の章」は森野夜の物語なので、「僕」の不気味さは解消されていない。
続編「僕の章」がどういう展開になるのか分からないが、読まずにいられない。


また本書の3短編すべて、ミステリとしての仕掛けが素晴らしい。

犯人と探偵役の「僕」がサイコパス同士だから通じ合う感じで進んでいく「暗黒系- Goth」は、論理パズルとしての本格推理とは違う趣がある。

トリック自体が犯人の心理描写を際立たせ、切なさを感じさせる「犬-Dog」も面白い。

「記憶- Twins」は「死んだふりをして遊ぶ双子の少女」などのモチーフが不気味だが、ミステリとしての展開は正統な本格推理だ。綿密に伏線が張られ、きっちり回収されている。

正直 グロい話は苦手だが、本作はそれでも読まずにいられない面白さだった。

こちらで購入可能

コメント