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超巨大密室殺人事件

オンラインの方が現実でも、もういいよね。誰もが仮面を被った世界で繰り広げられる「超巨大密室殺人事件」

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あらすじ

社会人2年目の佐藤仁菜は、幼馴染である結城照の家を訪れる。照の姉 結城直子から様子を見に来て欲しいと頼まれてのことだった。

照は大学在学中から事業に成功し、今では事業をすべて売却してオンラインゲーム「サンド・ランド」に熱中していた。イナスカという名でプレイしていた照は、ゲーム内で結婚を約束していたラミーチのアカウントが消されてしまったことに絶望していた。

現実世界への関心を失い「ゲームの方が現実」だと断言する照は、ラミーチを殺した「マーダー」への復讐を誓う。

照を理解するため 仁菜もサンド・ランドを始める。照ことイナスカが率いるギルドに参加し、ギルドメンバーたちと交流を始める。

やがて仁菜は新庄という男から、照の姉 直子が行方不明だと聞かされる。現実世界では「顔無し」と呼ばれる連続殺人犯が出没していたこともあり、仁菜は不安に駆られていた。

イナスカのギルドメンバーの一人であるミカは、ふとしたことからサンド・ランドのメンテナンスのタイミングと、「顔無し」が現実世界で犯行を行うタイミングが一致していることに気が付く。

一方、仁菜の方はゲーム内の「マーダー」と、現実世界の「顔無し」が同一人物ではないかと考え、データ分析能力に優れるミカに、マーダー探索への協力を願い出た。

同じころ、マーダーへの復讐に燃える 照も、ゲーム内ナンバーワンギルドを率いるJティスとコンタクトし、マーダーを炙り出す作戦を組んでいた。

仁菜、照、ミカ、Jティスたちが、それぞれの思惑で動き始める。

感想・考察

ゲーム内でのキャラクタと、現実世界の人物が複雑に絡み合う。

叙述トリック的の名手である二宮氏の作品だけあって、緊張感をもって読むことができた。仮想世界と叙述トリックは相性がいい。

現実と仮想が完全に入れ替わってしまっている登場人物の視点も、なんだか不気味な生々しさがある。

「超巨大密室殺人事件」というタイトルも最初はよく分からなかったが、この「密室」は不可能犯罪の要素ではない。

作中で「ゲームは限定空間で密室だ」という意見に対し「それを言うなら地球だって巨大な密室だ」というやり取りがあり「現実と仮想に質的な差があるわけではなく、結局は情報の数と密度の違いだけ」で「情報量を増やしていけば現実との差異はなくなる」という考え方が語られている。

分かりにくいがそれを端的に示したタイトルなのだろう。

読んでいて何となく不安な気分になる物語だった。

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