僕が殺しました×7
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あらすじ
7人が「私が榊リエを殺した」という。
真実はどこにあるのか。
大学生の藤宮リョウは女子高生の榊リエと付き合っていたが、突然「他に結婚を考えている人がいる」と言われフラれてしまう。
絶望したリョウはリエを「刃物で刺して」殺してしまう。
凶器を持ったままホテルの一室に潜んでいたリョウだが、川西という警察官に引き連れられミーティングに参加することとなった。
そのミーティングに集まった7人全員が「私が榊リエを殺した」と自白した。
ミーティングを主催した何者かは「会議の目的は真犯人を特定すること。目的が達成するまでミーティングは終わらない」と書き残していた。
警察官の川西はリエを「絞殺」した。
リエのストーカーとなった川西は彼女に付きまとっていたが、現世で一緒になることができないことをリエも嘆いていると考え、彼女を殺し自分も後を追おうとしていた。
友人である板倉ケーコはリエを「溺死」させた。
ケーコは小学校時代、テストの点が取れず親から厳しく叱責されていた。それを見ていたリエはケーコに「カンニング」の手伝いをする。リエ自身はわざと答えを間違えケーコに満点を取らせ続けた。ケーコは、親から褒められ学校での評価も上がり、中学時代には彼氏もできたが、生殺与奪の権をリエに握られているような息苦しさも感じていた。
高校に入りお金に苦しんでいたときはリエがアルバイトを紹介してくれた。AV女優をスカウトする仕事でリエは成果を上げていたが、ケーコは全くうまくいかなかった。
リエが見込み客を譲ってくれてもうまくいかず、「気にしないで」というリエの言葉にプレッシャーを感じたケーコは、自らがAVに出演して埋め合わせをしてしまう。
ケーコはリエにプレッシャーを感じていることをぶちまけたが、それでもリエは「ずっと友達でいて欲しい」と言う。
リエの呪縛から逃れられないと感じたケーコは、リエを殴打し気絶させて川落として溺死させた。
小学生の吉田ミツルはリエを「毒殺」した。
小学生のミツルは今の世界から逃れたいと思っていたミツルは、別世界への出口だと考えていた鉄塔でリエと出会う。
ミツルの父が不倫を始め家に戻らなくなったことをリエに伝えると、リエは何とかすると言い、数日後、実際に父が家に戻ってきた。
恩返ししたいと言ったミツルにリエは「私は一緒にいる人を不幸にする。私を殺して欲しい」と告げた。
ミツルは入手した毒をコーヒーに混ぜ、鉄塔の下でリエに飲ませて毒殺した。
継母である榊ヨリコはリエを「車で轢いて」殺した。
ヨリコは平凡な家庭を望んでいたが、入社直後に既婚者であるジンヤを好きになってしまう。ヨリコはジンヤの妻に、自分や他の女性との関係を示す証拠を送り付けた。ジンヤの妻は二人の子供、リエとカズヤを残して彼の元を離れてしまう。ジンヤはヨリコと再婚したが、他の女を作って二人の子供をヨリコに押し付け他の女の元に向かってしまう。
やがてヨリコは新たな男と不倫関係を持ち、彼に救いを求めたが、リエにその関係を引き裂かれる。不倫相手の男はミツルの父親で、リエはミツルを救うために動いたのだった。
これに逆上したヨリコは、車でリエを轢き殺してしまった。
部活の先輩、佐久間カナミはリエを「線路に突き落とし」殺した。
リエと同じ高校で水泳部の先輩であるカナミは、リエが入部してからずっと指導してきた。ところがある日リエのタイムがカナエを上回ってしまう。カナエは悔しさを感じながらも喜びを感じていたが、リエは「嫉妬で嫌わてしまう」と考え怯えてしまう。
その日以降、リエは決してカナエのタイムを超えないよう、明らかに手を抜いていて、それを知ったカナエはかえってリエに怒りを感じ、二人の間に距離が開いてしまった。
だがある雨の日、偶然通りかかったリョウが、リエとカナエに1本の傘を貸したことをきっかけに二人は仲直りすることができた。
カナエは、リエ、リョウと3人で遊ぶ機会が増え、いつしかカナエはリョウに惹かれていった。ところがいつしか、リョウがカナエと付き合いだしたことを知り、深いショックを受けた。
だがリエが「私は一緒にいる人を不幸にするから、リョウと別れたい」と言い出したのを聞き、抑えていた気持ちが爆発して、彼女を駅のホームから突き落とし殺してしまった。
IT会社役員の桜井ワギはリエを「撲殺」した。
ワギはリエに声をかけたが全くなびかず、リエの生意気な態度がかえってワギの攻略心を掻き立てた。
やがてワギは、リエの母親が自分が関係している消費者金融会社から借金をしていることに気づき、リエが母親ヨリコの借金を肩代わりしていたことを知る。
リエはワギが紹介したAV女優スカウトの仕事でずば抜けた成果を出していたが、ワギはヨリコにもっと借金をするように促し、一方でスカウトの歩合を下げ、リエを追い詰めていった。
リエはワギに「結婚して母親の借金を帳消しにすること」を条件に交際する言い、ワギはそれを受け入れた。だがそれ以降、母親の借金の話しかしないリエを疎ましく思ったワギは、彼女を金属バットで撲殺してしまう。
リエを殺した状況の証言はそれぞれ食い違う。
一体リエは、誰にどのように殺されたのか。
あるいは、実際には殺されていないのか。
最終章で謎が解き明かされる。
感想・考察
「7人がそれぞれ違う殺害方法で自白している」というシチュエーションは斬新だ。叙述トリックの名手である二宮氏だけに期待が膨らんだが、ラストはちょっと唐突感があり肩透かしをくった感じだ。
だが、本作の魅力はトリック以外の所にあった。
語り手であるリョウの見ていたのはリエの一面だけだった。リエに関わる6人の話を聞き、より立体的なリエの姿が浮かび上がってくる。
相手のことを理解しているつもりでも、自分が見たいようにしか見ていない。
最初に出てきたストーカーの話があまりに一方的でイライラしたが、結局誰もが自分の視点でしか相手を見ていないことが分かってくる。
もしリョウが、リエをもう少し多面的に捉えていれば、彼女を悲しみから救ってあげることができたのかもしれない。
リョウの嘆きは読んでいた胸を抉るようだった。
もう一方の主人公であるリエも、とても不器用な生き方をしている。
両親の愛を失い、継母からは「お前のせいで不幸になった」と言われ続けて育った彼女は「嫌われないこと」を行動の第一原則としていた。
相手の感情を極端に怖れて自分で全てを抱えようとしてしまう。でもそれがかえって相手を追い詰めていってしまう。
もう少し自分の気持ちを表現することができれば、友達を失うこともなかっただろうし、リョウとの関係もうまくいっていたのかもしれない。
リエのことが他人とは思えなかった。
謎に満ちたストーリーに引き込まれ、最後には主人公たちの心に引き込まれる。素晴らしい作品だった。