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日本沈没

50年の時を経て変わったことと変わらないこと。『日本沈没』

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あらすじ

小笠原諸島である小島が一晩で海面下に沈んだ。地球物理学者の田所博士、海洋地質学者の幸長助教授は、潜水艦操縦士の小野寺と「わだつみ」で現場を調査し、海底に亀裂と乱泥流があることを見付ける。

田所は各地での観測結果から、日本列島周辺のマントル対流に急激な変化が発生し、2年以内に日本が沈んでしまう可能性を指摘した。
最初は非現実的だと受け入れられなかったが、政財界のフィクサーである渡老人の助力を得て首相も動かし、事態の調査と日本国民の脱出を手配する「D計画」を立ち上げた。

「D計画」では海外からも深海調査の潜水艦を買い入れ調査を進めていた。そのうちに東京で「第二次関東大震災」と呼ばれる巨大地震が発生し、数百万人の死者がでた。

首相は国民には情報を伏せながら、海外諸国と避難民の受入れについての根回しを行う。国民の動揺を治めるため、田所は自らを犠牲にして「D計画」を去った。

シミュレーションの結果、10ヶ月以内に日本列島が沈没する見込みが高まり、首相は国会演説で発表した。
政府は自衛隊や民間商社なども巻き込み、一人でも多くの人間を海外に退避させるよう計画を遂行していくが「D計画」スタッフには過労で倒れる者も出始めていた。

やがて、四国から始まって列島は裂けはじめ、ごく短期間で完全に水没してしまった。

だが「D計画」の奮闘もあり、人口1億1千万人(1970年代の設定)のうち、6500万人の海外避難が完了していた。

感想・考察

半世紀前の作品なので、SFとしての設定や周辺国との政治関係などにはさすがに古さを感じる。

一方で、災害観や家族観、仕事への姿勢など「日本」についての描写は面白い。50年の時を経て変わってしまったことと、今の変わらずに残っていることが、今読むとはっきりと見える。
いくつかの場面を切り出してみよう。


国民の中に、災害のたびにこれを乗り越えて進む、異様にさえ見えるオプティミズムが歴史的に培われている。日本はある意味では大災害のたびに大きく前進してきた結果的に災厄を利用するという政治伝統が備わっているようだ
日本人はラジカルな変動を嫌う。だから古くどうしようもないものを一掃するときは外界の圧力や天の配剤を利用するのだろう。
どれだけ時差出勤を訴えても、地獄のような満員電車はなくならなかったが、今回のコロナ禍は将来的にも行動を変えていくきっかけになるかもしれない。


日本人は将来、世界の中に散らばって生きていかなければならないと思う
本書では物理的な「日本沈没」が日本人が世界に散らばる契機となった。今のところ幸運にも国土を失うような災厄は起こっていないが、経済的な環境変化から日本人が海外に散らばる傾向は加速していくのだろう。
たとえ物理的には日本にいても、情報通信技術の進化で、いやおうなしに世界を相手に活動することになっている。


関東大震災で、社会派大きな危機と不安に襲われた。社会不安を煽る勢力を封じるために『治安維持法』が生まれ、戦争へと繋がっていった。関東大震災がファッショ化の原因になったという見方もできる
いま目先の問題を解決することはもちろん大事。でもそのために歴史を重ねて作り上げてきた権力コントロールの仕組みを放棄してしまうのは、長期的に見て害が大きい。

組織の統制に服して秘密をまもるか、肉親を救うため兄に『逃げろ』と言うか
「忠義」が道徳だった忠臣蔵の時代から、「情」が最優先される現代に移り変わってきた。
今の自分にとって「忠義」と言うと納得できないが「組織の理論への服従」と言い換えると理解はできる。この点については日本人の平均的な感性が変わってきているのだと思う。50年前の本書を感じ方の変遷ベンチマークとしてみると面白い。

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