さよならも言えないうちに
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別れは来るとわかっているのに。。
『コーヒーが冷めないうちに』シリーズの第4弾です。また泣かせにきてます。
過去に戻れる喫茶店フニクリフニクラのルールに「過去に戻ってどんな努力をしても現実は変わらない」というものがあります。
今作ではその設定が深掘りされ「出来事は変えられないけれど、過去に戻って話した言葉は相手の記憶に残る」ことが明確になりました。たとえば、大切な人が死んでしまう事実は変えられなくても、その人が亡くなる前に思いを届けることはできるということです。
第1話 大事なことを伝えていなかった夫の話
ある学者の妻が意識を失い植物状態になってしまいます。
その学者はひたすら自分の興味に従い、周囲の人間を慮ることなく生きてきました。彼の研究成果は認められ社会的には成功しましたが、家庭人としては完全に失格でした。
そんな彼を理解し支えてくてくれた妻。
彼は彼女に何も伝えられなかったことを悔やみ、過去に戻れる喫茶店を訪れました。
妻と話ができなくなってしまうという事実は変えられなくても、そうなる前に思いを伝えたい。妻が意識をなくすにしても、その思いを知っていて欲しい。
そう、彼は願いました。
たとえ現実は変えられなくても「相手に思いを届けていたかどうか」は大きな意味を持つのかもしれません。
結局この教授は、「相手に届いたかどうか」よりも「自分が相手に届けたかどうか」に意識が向いていて、人間関係を築く上では本当に不器用だな、と呆れてしまいます。でもそれが自分と重なって見えたりします。
夫のそんな部分まで受け止める妻の懐の深さに感銘を受ける話でした。
第2話 愛犬にさよならが言えなかった女の話
老衰した愛犬の最期、眠ってしまって看取ることができなかった女性。
彼女は最後のお別れをするため過去に戻れる喫茶店フニクリフニクラを訪れましたが、何をしても「過去に起こった事実は変えられない」と知り落ち込みます。
でもそれでも、彼女は過去に戻りました。
ペットがいなくなるのは、鉄板の「泣かせ話」ですね。私も犬を飼っているので涙腺が緩みます。
人間がペットを見守っているつもりでも、実はペットに守られているのかもしれません。
第3話 プロポーズの返事ができなかった女の話
彼からのプロポーズに心を決めきれず返事を保留した女性。
彼は「待っている」と言うも、しばらくして「他に好きな女性ができた」と離れていったしまいました。そしてその数ヶ月後、彼女は彼の訃報を聞くことになります。
たとえ過去は変えられくても、自分の思いを伝え、彼の真意を知るために、プロポーズを受けた日に戻ることに決めました。
この男はカッコ良すぎてカッコ悪い。
自分の死が見えているときでさえ、相手の思いを優先する態度は、キレイすぎてかえって気持ち悪いと感じてしまいます。もし自分がこの女性側の立場だったら、彼が思いを吐き出してカッコ悪く足掻いてくれる方がずっと嬉しいでしょう。
チキンな自分には刺さる話でした。
第4話 父を追い返してしまった娘の話
大学に入り一人暮らしを始めた娘は、父の干渉を疎ましく感じていました。
ある日、自分に会いにきた父親を冷たく追い返してしまいます。
彼女に追い返された父は、東北の実家にもどり、そこで震災に巻き込まれ亡くなってしまいます。
自分が行動が父の死を招いてしまったと悔やんだ娘は「自分がだけ幸せになること」を禁じて生きてきました。
彼女は過去に戻れる喫茶店の話を聞き、あの日の行動を変えようとします。
「ペット」「恋人」「家族」と泣かせ話の連続ですが、この最終話が一番きましたね。。
フニクリフニクラの時間遡行では「過去は変えられない」となっていますが、厳密にいうと「変えたいと思っている結果は変わらないけれど、その過程のできことは変わりうる」ようです。
この父は、最初は「娘に結婚資金として準備した預金の通帳」を取りに行くために津波に巻き込まれ死んでしまいましたが、娘が戻った時には預金通帳を渡しているので、そのことが死の原因ではなくなった、ということです。
過去に戻った娘の変えたかった過去は「父が震災で死んでしまうこと」で、その結果は変えられない。
でも、もし仮に娘の願いが「父の遺した預金を手に入れること」だったとすれば、願いは叶っているし「過去は変わっている」といえます。
「本当に変えたい出来事はだけ変えられない」という、結構意地悪な設定ですね。
でもだからこそ「今ならできること全力でやる」ことを促しているのでしょう。
伝えたいことは、今のうちに伝えておかなきゃ。