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『君を愛したひとりの僕へ』&『僕が愛したすべての君へ』

『君を愛したひとりの僕へ』&『僕が愛したすべての君へ』

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君の可能性ごと、僕は君のすべてを愛する

『君を愛したひとりの僕へ(君愛)』と『僕が愛したすべての君へ(僕愛)』の2本立て、面白いです。

「どちらから読むかで結末が変わる」と謳っているので、私の必殺技「読んだ内容をすっかり忘れる」を使って両方のパターンを検証してみました。

2パターンを比べると、個人的には『君愛』→『僕愛』の順番の方が圧倒的に良い。
ハッピーエンド寄りなのが好きだし、SF設定もこの順番の方がわかりやすいです。

切ない後味を求める人には『僕愛』→『君愛』の順番もいいかも知れません。


ちなみに、読む順番で結末が変わるといっても、叙述トリックのように、見えていた出来事が根本的に変わるわけではありません。

最初に読んだ方ときの視点が次の話にも影響して、誰にどのように感情移入するのかが変わってきます。それによってそれぞれの結末が、切なく見えたり幸せに見えたりする、そういう形の変化です。


「並行世界」で繰り広げられるSF恋愛小説というのが2冊に共通する基本設定です。

無意識に近い並行世界に飛んでいることがある。近い並行世界はほとんど違いがないので、少し違和感を感じる程度で、飛んだ本人も気づいていない、という世界。


『君愛』では
「この世界の君」一人だけを徹底的に愛します。

たったひとりの「この世界の君」を救うために「この世界の僕」の人生を犠牲にして「僕と出会わなかった君」の人生さえも利用します。

クレイジーなまでの想いが動かす、一途なラブストーリーでした。


『僕愛』では
「すべての君」の可能性を受け入れ愛します。

並行世界が当たり前に受け入れられる世の中で

「この世界の君」も、
近くの並行世界の「君と似た君」も、
遠くの並行世界の「君とは随分違う君」も、

全部まとめて受け止めちゃいます。

君と少し違う君を愛せるのか、
他の世界の自分が君を愛することを許せるのか。

思い悩みながらも、最後には「君のすべての可能性を受け入れる」ことを決めました。

君が過去にどんなことをしていようと、
将来なにをするにしても、
僕は君を受け入れて愛する。

主人公の器の広さがカッコいい話でした。

ネタバレ考察

ここからはネタバレが入るので、読了後の方に向けて。

2冊を読んで違和感を感じたのは、『僕愛』での和音の暦への唐突なアプローチでした。

「首席入学でヌカ喜びさせられた復讐」という理由付けはあったけれど、その後の和音の行動は「仕返し30%+仲良くなりたい70%」くらいの比率で構成されているようにみえます。

動機と行動の関係がどうもしっくりきません。


その上、でもう一度『君愛』を読むと、ラストの描写が気になりました。
暦を見送った後の和音は、その後ずっと彼の抜け殻を見守って過ごしたのでしょうか。

和音の芯の強い行動力を考えると、ただ待ち続けた、とは考えにくいです。

そこで「和音も暦の後を追い高校時代まで戻った」とすると『僕愛』の和音の行動に説得力が出てきます。

別世界の和音と融合すると徐々に記憶を失ってしまう、という設定ですが、記憶のあるうちに計画を書き残すくらいはできるでしょう。

「仕返し30%、仲良くなりたい70%」のモチベーションも『君愛』での和音と暦の関係を思うと納得いくものです。記憶が消えた後も、その思いは胸の奥に残ったということなのではないでしょうか.

そう思って読むと「栞は暦と出会わないまま幸せに過ごし、暦と和音は共に幸せな人生を送る」という、「全員が幸せな完璧な世界」に辿り着いた和音の一人勝ちにみえてきます。

暦の粘りを上回る、和音の超粘り勝ち。
素晴らしいハッピーエンドです。

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